8月27日 深夜に不愉快な患者がやってきました

十二時を過ぎて眠ろうとしていたころに電話が鳴りました。その日は疲れていましたし 電話に応答するか少しだけ迷いましたが この時間帯に診察すれば 少なくともウン万円は稼げるだろうと判断して受話器を取りました。散歩中に足先を怪我したみたいで少し出血しているみたいだし 凄く痛がって触ろうとすると噛みついてくるので どのような傷があるのかも確認できない ということでした。

足先を舐めないようにエリカラーを装着して 毛を刈って傷を確認して 消毒して抗生剤でも塗布するぐらいの処置で終わりそうでした。あまりお金にはならない容態ですが 逆に短時間で診療が終われそうでしたから 来院するように指示して 電話を切りました。私は病院に降りて エリカラーやバリカンの準備をしながら患者の来院を待ちました。

やがて患者さんが到着したので カルテを作って問診から始めました。こちらの質問になかなか的確な答えが返ってこないので 余計に時間がかかりましたが 診察室に入ってもらって 診察を始めました。取り敢えず初対面の犬なので 顔から診察を始めます。目や耳。口の中の状態をチェックしました。

主訴は後肢の先ですが 何しろ初対面なので 本人の性格や反応の仕方 飼い主の保定の仕方などを確認するために 無関係な部分から診察していくわけで 決して無駄な動きをしているわけではありませんし 飼い主の気付いていないところの病気を見つけてあげられる場合もあるのです。なのに「余計な場所の診察はいいから 早く痛がってる足を診てくれ」とずけずけと言われてしまいました。

この時点でかなりむかっときましたが その腹立ちはしまっておいてにこやかに対応できました。さて、肝心の足先の痛がっている部分を触った時に家で見ようとすると噛みに来るので全然見られないのだそうですが 病院でも同様にかなりの勢いで噛みつきにきました。飼い主さんには 「動かないように頭をしっかりと捕まえておいてください」とお願いしましたが 予想通り全然しっかりと保定する気がないので 殆どフリーの状態で噛みにきました。

犬に噛まれることは 勿論不愉快なことですし 痛い思いもしますし その後の仕事に差しさわりがありますから こちらも簡単にかみつかれるわけにはいきません。その犬が嫌な部分を触ろうとしたときに 殆どフリーの状態で噛みつきに来ることを ある程度覚悟していましたから 私は噛まれそうになった時に 早めに手を放して逃げました。

その様子を見たその飼い主は 「獣医は犬が噛みに来たからと言って逃げたらあかんやろ」等と信じられない言葉を吐きました。私は事前に「患部をしっかりと確認しますから 頭が動かないように捕まえておいてください」と二回も繰り返し指示を出したのに 全然頭を捕まえていませんでした。以前ならこの時点で 「診察できないからもう帰ってくれ」と怒鳴り散らすところですが ぐっとその言葉を飲み込んで 別の方法を考えました。

バスタオルを二枚重ねにして その犬の上半身をぐるぐる巻きにしてから 飼い主に保定させました。この状態ならさすがにいい加減で無責任な飼い主でも 犬を動かない状態に保定できましたから 足先の毛を刈って 患部をよく見える状態、きちんと治療のできる状態にしました。傷口を確認して 消毒して薬を塗り 同様の作業を毎日続けるように指示を出しました。

傷口はごく小さなもので 舐めないようにエリカラーをして消毒と抗生剤の塗布位で直ってしまうように思いましたが 飼い主は「結構出血したからもっと大きな傷があるはずだから もっと別の傷口を探してくれ」と言い出しました。私もプロの臨床家ですから 慎重に患部を観察していましたから 他に傷など無いことは分っていましたが 一応飼い主の言い分を通して もう一度足の先を隅々まで調べてみましたが そのような傷口は見つかりませんでした。

その時に飼い主が口走った言葉が「もうええわ 明日また別の病院できちんと診てもらうわ」でした。私はもうむかっ腹を抑えるのに慣れてしまっていましたから 平然と「傷口を舐めていたのなら口から雑菌が侵入している可能性がりますから 抗生剤と消炎剤と注射して治療を終りにしましょう」といいましたが「注射は必要ない」と拒否されました。

翌日からの内服薬も拒否されました。結局消毒薬と抗生剤のクリームだけを渡しました。こちらの指示に従って注射を射ち、内服薬を受け取っていれば 治療費は恐らく二万円を切っていたように思いますが 注射と内服薬を拒否され 翌日に別の病院へ行くという言葉にむかつきましたので 二万うん千円頂戴してお帰り願いました。

はらわたは煮えくり返りましたが 普通の人が正味30分で 二万円以上のお金を稼ぐのには それ相応に苦労されるだろうと思いますので 何とか辛抱できてよかったですし この二万円で せいぜい奥様と美味しいものでも食べに出かけようと思います。

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