9月13日 ブドウ中毒の犬が来院しました

犬の中毒としては ネギやチョコレートが有名ですから 犬を飼っている人なら知らない方はいらっしゃらないのかもしれませんが 犬のブドウ中毒というのは 2000年以降に 初めてアメリカで論文が発表されて 徐々にその認識が世界に広まってきました。現在の所 犬の病気について よく勉強をしている飼い主さんの場合 ご存じの方もいらっしゃいますが その認知度は 高くないように思います。本日の飼い主さんも 知らなかったことはなかったのかもしれませんが 犬が簡単に食せる所にブドウを少なからぬ量放置したのですから 飼い主さんの責任は重たいように思います。
有害な食品を食べてしまった場合の処置としては まだ食べたばかりのタイミングなら つまり胃の中にとどまっている段階なら 催吐剤を飲ませて 吐き出させてしまうのが 簡単でありかつ確実です。しかしこの子の場合 食べたのが五六時間前なのだそうですから 既に食べてしまったブドウは 腸内に流れ込んでいると考えざるを得ません。来院時には 分かり易い症状例えば嘔吐や下痢などは認められませんでした。ブドウの中毒を起こす成分が 既に体内に吸収されていても不思議ではないぐらいに食してから時間は経過しております。食べたブドウはかなり大粒の種類を二粒で 犬の体重が約四キロほどでしたから 中毒症状が現れるか否か微妙な分量です。
念のために血液検査を実施してみました。嘔吐下痢 と言った表面的な症状と 命に関わる可能性のある以上は 腎機能の低下です。おしっこは普通にしていると飼い主は答えていましたし 飲水量も普段通りなのだそうです。腎機能の値である尿素窒素とクレアチニンは 正常値をやや上回っておりました。腎機能に 僅かに異常が認められますが 初めて診察する犬ですから 普段の状態が分かりませんので 直ちにブドウの毒素による中毒と判断してしまうのは 早急なように思われます。
このブドウ中毒という比較的新しい病気が厄介なのは 中毒を起こす成分が判明していないことです。従って 当然解毒剤のような 特攻的な治療効果が期待できる薬も見つかっておりません。それに症例も少ないので 私も経験値が乏しいのが正直な所で 殆ど症状がみられない現状から 今後どのように展開していくか 予測が難しいのです。その辺りの事情は 飼い主さんに正直に説明して 可能な治療は取り敢えず予防的な対症療法しかないことを理解してもらい 治療を実施しました。具体的には現在は嘔吐も下痢もありませんが 数時間後から そのような症状が発言する可能性がありますので 取り敢えずは皮下点滴で 輸液を行い そこに制吐剤や整腸剤 腎機能を活性化する薬などを混注して投与しました。十四歳と結構高齢であったので 同様の薬をシロップの内服薬で投与しました。この後 どのような経過をたどるのか 正直分かりませんが 症状が現れない もしくは幾らか発現しても 薬が効いて 本人が少しでも楽に過ごせてくれる事を祈ります。
ネギにしても チョコレートにしても ブドウにしても 人間に対しては 有害な成分は含まれておりませんが 犬猫に対しては かなりの確率で 少なからぬ被害を及ぼします。犬には ドッグフードの範囲のものを与えるべきだと 口を酸っぱくして申し上げても 自分が手作りしたご飯が 最高の栄養食だと信じ切っている飼い主さんがいらっしゃいましたが その食材は殆どが人間の食するものですから 意外なものがペットの健康にとって 望ましくない食品である場合が ちょくちょくあります。
例えば キャベツなどは 人間がいくら食べても まず問題がありませんが 犬にとっては ナトリウムの量が多すぎて 明らかに心臓に負担をかけますから有害なのです。この知識は さすがに現在は相当に広まっていますから 獣医師で知らないものは 恐らくいないように思いますが 十年前ぐらいまでは 獣医師でも知らない人が結構いらっしゃったみたいです。ナトリウムを取りすぎると 人間でいうと塩分過多の食事を続けていれば 確実に血圧上昇から 心臓に大きな負担をかけることになってしまいます。
私が子供のころには 犬のご飯と言えば 白ご飯に味噌汁やおかずの残り物を加えたものを与えるのが ごく普通の事だったように思います。但しそんな食事をしていた犬の寿命は 十年にも満たなかったのです。現在はドッグフードが凄く普及しましたので ワクチンや薬の開発 普及とともに 大いに犬の寿命を延ばしました。可愛いペットに 自らの手作りで 食餌を用意してあげたい という気持ちは理解できないことではありませんが やはり餅は、餅屋 というようにドッグフードの範囲のものを与えるに越したことはありません。簡単に言うと 人間の食べ物は 全て犬にとってはお勧めできないと考えていれば あんまり間違いはないように思います。
とは申しますが ペットフードメーカーは凄く沢山ありますけれども 市販されているフードメーカーで 安心してお勧めできるのは 「サイエンス」と「アイムス」位のものです。それ以外のメーカーは 飼い主さんがフードを選ぶポイントは 犬が美味しそうに 嬉しそうに食べる という事なので 必要以上に美味しい味付けをしています。人間も美味しい物 好きな物だけ食べて 元気で長生きできれば 幸せなのですが 美味しいものに限って 油分やコレステロール 塩分などの含有量が多い場合が多いので 口当たりはいいかもしれませんが その類の食材は少なめに食べたほうが 間違いなく長生きできます。
つまりドッグフードも 人間の食べ物も 健康のことを考えて作れば バランスや味付けにそれなりの制限が加わってきますから それ程美味しい 口当たりの良いフードにはならないのです。人間の場合 好きな物だけを食べ続けて 早死にしても構わないと 自分の意志で決意されたのなら ご自由にされればいいと思いますが 与えられたものを食べているペットに長生きしてもらうためには 健康のことを重視して作ったフードを与えてあげていただきたいと思います。どんなフードを選ばれようと 私には関わり合いがない立場から申し上げていますから 出来たらこの言葉を信用していただきたいです。

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