9月23日 ネットの情報を鵜呑みにしてしまう あんまりおつむのよろしくない 飼い主さんから電話がありました

先ほど電話がかかってきたのですが 初めて電話を頂いた飼い主さんで フトアゴヒゲトカゲをかっているのだけれど 対応できるのかと 質問されました。その訊ね方 言葉づかいからして あんまりおつむがよろしくない輩だと思っておりましたが 自分の飼っているフトアゴヒゲトカゲに これこれこんな症状がある、ネット情報で確認した所 こういう病名の病気にかかっていることが分かった、この病気には とある抗生物質名をあげて よく効くと言われているが お宅にはその薬があるのか と問われました。そのメーカーのその抗生物質は当院では扱っていないけれど 同効の薬剤ならあります、と答えると なんやそんな病院ならもういいや と言いたい事だけ言って電話を切られてしまいました。暫く開いた口が塞がらない というか 呆れてしまって 何かをする気力を損なわれてしまいました。暫くたって ようやく気持ちが落ち着いてきたので 早速ブログの題材として取り上げようと思い パソコンに向かいました。
私も仕事柄 ペットの病気の情報について ネット検索をする事は時々あります。その情報には 勿論きちんと勉強されて 十分に臨床経験がおありなのだと分かる獣医師さんが 新しくて 正しい情報を掲載されている場合も少なからずある事は事実です。けれど そのような有難くて 有益な情報は ほんの一握りで殆どの情報は 大間違いか 大噓ばかりです。勿論そんなくだらない誤った情報を流している方々も わざと間違えているわけではないのでしょうし 嘘をつきたくてついているわけではないのだろうと 思いたいです。
でもそんな大間違い 大嘘情報を 鵜呑みにしてしまう 愚かな飼い主さんが 少なからずいらっしゃるみたいで 本日電話をかけてこられました。そもそも ペットの状態を丁寧に観察して 症状を正確に読み取るという事は ある程度臨床経験を積んだ獣医師でないと難しいように思います。なのにこの愚かな飼い主は 自分で勝手にそのトカゲの症状を決めつけて 多分その誤った情報と似通ったところが幾らかあったのしょうが その情報の病気だと安易に決めつけたのでしょう。そもそもきちんとした獣医師の情報なら そんなに簡単に素人さんである飼い主さんに診断がついたと 誤解を招くような表現は使わないでしょう。それに具体的な抗生物質の名称をあげて それも薬剤名ではなくて 商品名をあげて その病気には あたかもこの治療薬だけが有効であると 断じたりは絶対にするはずがありません。
薬剤名というのは その薬の成分の名称で 商品名とはその成分を含んだ薬剤に対して 薬品会社が独自に 勝手につけた名称です。ですから全く同じ成分を同量含んだ薬剤でも 全く異なる商品名がついていることは珍しくありません。特殊な病気の場合 その病気には ある特定の薬しか効果が期待できないような 極稀なケースがないことはありません。でも もしちゃんとした獣医師が その薬の名前を明らかにする場合があっても ほぼ間違いなく成分名を情報として流すはずです。
それも そのトカゲの症状が 嘔吐と下痢という 頻繁に起こりうる一般的なものでした。その症状だけで どのような病気なのか どんな治療が必要なのか 特定することは凄く難しいと思います。嘔吐と下痢を起こす原因としては 毒物などの体に有害なものを 食べてしまったり 毒蛇に噛まれたりした場合にも起こりますし 腹部に物理的なダメージ 例えばどこかから落下して腹部を強打した場合や何方かに踏みつけられたりしたなどの可能性もあります。胃や腸に細菌やウィルス感染が起こった場合も考えられますし ホルモンや消化液の分泌過剰や不全の可能性もあるのかもしれません。当たり前ですが 似たような症状を起こしている状態でも 原因が異なれば 治療法も予後の見通しも全く異なってくるのです。
この飼い主が言い出した薬剤は 抗生剤の一つでした。抗生物質 と言えば なんにでも劇的に効果のある 魔法の薬の様に勘違いされている方が 結構いらっしゃいますが 抗生物質を使用する目的は 細菌感染が起こっている場合に その細菌を攻撃して その数を減少させることにあります。つまり抗生剤というのは 細菌感染によって 症状が発現しているときにしか 効果が期待できません。それも各薬剤には 抗菌スペクトル つまり守備範囲が異なりますから 感染している細菌を特定してその薬剤が有効なのかどうかの判断が必要かもしれません。抗生剤なら何でも同様に効果があるわけではありません。守備範囲以外の細菌が 感染を起こしている場合には 一切感染症を直す作用は期待できないのです。
私は この辺りの事を キチンと簡単にできるだけ分かり易く 説明しようと思っていましたが その説明の前に電話を切ってしまわれたので どうしょうもありませんでした。勘違いされている飼い主さんは 世の中には 残念ながら結構いらっしゃるみたいで 本日電話をかけてきた飼い主が 一体どんな表現を使われている情報を鵜呑みにしたのか 見当もつきませんが 動物を診察して どんな方向に向かって治療を目指すのか考えて 実際に治療薬をチョイスして 治療するわけですが そんなに単純で 安易な事ではありません。
いつぞや 自分の猫の写真を携帯電話で見せられて こんな状態なので 診断して治療薬を要求されたことがありました。写真の猫は 鼻水を垂らしていましたから 風邪の症状なのかもしれませんが 何時頃そのような状態になったのか くしゃみや咳をするとしたらその頻度は とか食欲がどれくらいあるのかなど 訊ねましたが めんどくさそうに 写真を見せているのだからそれだけで診断してくれと 言い張るので 若い頃なら そんないい加減な診断は出来ないので ペットを連れて来院してください と申し上げていたかもしれませんが 年を重ねると さすがに私の性格も 体型と同様に丸くなってきましたので 写真から 風邪をひいて鼻水を垂れていると思われますので 風邪薬をお出しします と適当に対応してしまいました。薬を飲ませても効果がないようでしたら ご来院ください と無難な発言をして お茶を濁しました。
本来なら しっかりとそのペットと対面して 体重や体格を知り 呼吸の状態や心音 体温などを確認して 必要とあらば血液検査ぐらいして 出来るだけ正確に診断すべきだと思っておりましたが 所詮 動物病院なんか サービス業の端くれですから 折角お越しいただいた飼い主さんに 気分よくお帰り頂いて こちらもそこそこ楽に儲けさせてもらう方が 互いにウィンウィンの関係になれるのだと 考えるようになりました。大人のずる賢さかもしれませんが 若いころは しゃくし定規に 正論を振りかざして 飼い主に対応してきたがために 当院の評判が 悲惨なものになってしまいましたので もう仕事を辞める寸前ではありますが 後を濁さないように心掛けて 最後のご奉公を致したいと考えております。

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