3月25日 足を食いちぎられたカメの手術をしました

夕方に電話がかかってきて 飼っているカメが恐らくイタチの仕業だと思うのだけれどもシッポと後ろ足を食いちぎられたみたいなのだけれども 治療してもらえるか と言う要件でした。どのような状態なのかおたずねしても 足を甲羅の中に引っ込めているのでよく解からない とのことでした。大きなダメージを受けているわけですから 足を引っ込めているのは 当然の反応でしょうから取り敢えず来院してもらう事にしました。
来院されましたので カルテを作りました。二十年前にペットショップで購入したゼニガメなのだそうです。カメの平均寿命は小さなゼニガメの場合三十年前後と言われているみたいですから 既に人生半ばは過ぎているのかもしれません。尚体が大きくなるほど寿命は伸びるみたいで ゾウガメの類は百五十年前後生きるのだそうです。さすがに二十歳ですから 体もかなり大きくて体重は1.5キログラムありました。会社の倉庫のような場所に プールのように水をためる設備があるそうで そこに砂利を入れて水場と陸地を作って 飼っているのだそうです。普段は逃げられないためにフェンスを被せるようにおいてあるのだそうですが 昨日朝出勤すると フェンスが取り払われており やっと冬眠から覚めて活動を始めたばかりのカメが恐らく陸地に上がっている所を 運悪く襲われたらしいです。
頭は体重を量っている間は飛び出していましたが 撫でてやろうとすると 当然かもしれませんが引っ込めてしまいます。食いちぎられたのは左の後ろ足の様です。足を引っ込めても足の裏と爪が 反対側の足には見えていますが 食いちぎられた方はそれらが全然見えませんから 恐らく足首から先を失っているみたいです。飼い主さんから 本日の体調について伺いながら何とか足を伸ばしてくれないかと期待して待っていました。食欲は本日は全然なかったそうですが 例年 冬眠から覚めたら 体調が戻って活発に活動を始めるまでは 数日間食欲も戻らないのだそうで 本日食欲がないのが 怪我によるダメージの為なのかはよく解からないとのことでした。
しばらく様子を見ましたが 足を延ばしてくれる可能性がないようなので 仕方がないので外から見えている部分で 皮膚が引きちぎられたようになっている所に消毒液をたらして乾いた脱脂綿でふき取り 抗生剤の軟膏を塗ってもらうしか治療の方法がないように判断しました。消毒の仕方を飼い主さんに説明している途中で 消毒薬の刺激に反応したのかもしれませんが 突然食いちぎられた方の足を 思いいきり伸ばしてくれました。
私は慌てて その足の太ももに当たる部分を捕まえました。太ももの下に膝があり その先の予想していた通り足首の辺りから先を食いちぎられているのが確認できました。皮膚は引きちぎられたように無残な状態でしたし 肉の中から骨がむき出しになって飛び出していました。骨と言う組織は 空気に触れてしまうと組織が崩壊して崩れ落ちるように消失するのです。この状態で足を動かしていれば 骨の突出はさらに大きくなり いずれは消失するでしょうし 引きちぎられた皮膚も再生して肉の部分を覆ってくれるような再生を期待するのは難しい状況の様でした。
仕方がないので 突出している骨を除去して 引きちぎられた筋肉組織を整形し 皮膚もきちんと再生するためには形を整えて 縫い合わせる手術が必要であると判断して その旨を飼い主さんに説明しました。全身麻酔は 冬眠から覚めたばかりの時期には 不安がありましたので 手術する左後肢に局部麻酔をかけて行う事にしました。その時点で夜の八時を過ぎていましたので いったん預かって 手術の準備ができ次第 手術することにしました。当然一人では無理ですから 奥様を呼び出さなければなりません。
直ぐに電話をかけて 呼び出して到着を待つ間に手術の準備をしました。奥様が到着して手術を始めようとしましたが こちらの都合だけでは手術が始められません。先ほどの様にカメが左後肢を伸ばしてくれないとそしてその状態で太ももの部分をしっかりと捕まえないと 手術が始められないのです。当然かもしれませんが カメにしたら 初めて会った人間たちに捕まえられているのに 患部の足をなかなか表に出してくれません。患部と同じ左側の前足を捕まえてみましたが 余計に後肢を引っ込められてしまいました。そこで今度は逆に 左前肢を押し込んでみました。すると押し出されるように同じ側の後ろ足が少しだけ外に出てきました。しかしいつまでも前足を奥に引っ込めているとカメが苦しそうに見えたので 辞めたらすぐに後ろ足も元の様に引っ込んでしまいました。
正直私も亀の体の構造まではよく知りませんでしたが いろいろな部分を触っているうちに徐々に体の反応が分ってきました。どうも前足を押し込むと膝が伸びるような状態になって 後ろ脚が少し外に出てくるみたいなのです。そこで鉗子を三本ほど用意しておいてから 前足を押し込みました後ろ足が少しだけ伸びた時に皮膚のしっかりした部分に鉗子を三本かけました。後は勢いで鉗子をそっと引っ張って後ろ足全体を甲羅から引きずり出しました。まずは私がしっかりと太ももの辺りを捕まえて 足をひっこめられない状態で保定しました。慎重に奥様の手に持ち替えてもらいました。実は奥様は爬虫類が大の苦手なので カメに直接触れるのは怖いとゴム手袋をはめていましたが ゴムによってかえって滑りにくくなり 捕まえやすかったのかもしれません。
先ずは局部麻酔剤を筋肉注射しました。麻酔が効いて来ればある程度じっとしていてくれるでしょう。さてどうにか術野が確保できましたので 先ずはアルコールをたっぷりとかけて 傷口を出来るだけ消毒しました。次に突出している骨を骨切ばさみで切除しました。ついでグシャグシャに引きちぎられた筋肉組織の形を整形しました。更に垂れ下がったような状態の皮膚も余分な部分を切除して 縫合出来る形に整えました。先ずは骨がまた飛び出してこないように 筋肉組織を吸収糸で何針か縫いました。次に皮膚同士を合わせて五針ナイロンの糸で縫い合わせました。
私も細かい作業でかなり大変でしたが 奥様が ゴム手袋越しとはいえ苦手なカメのふとももをしっかりとつかまえてくれていましたから それもかなりの時間ですから 相当に大変だったと思います。何とか無事手術が終えられましたので 飼い主さんに電話でお知らせしてその日の仕事が終了しました。時計を見ると十時を回っていましたから 結構疲れた一日でした。

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