6月7日 まだお若い飼い主さんが 急死されたという 悲報が入りました

五月のとある水曜日に 私は休診日なので 外出しておりましたが お昼過ぎに病院への電話が携帯に転送されてきたので お話ししました。同じ枚方でもかなり遠方の方で 初めてお話ししましたが 一時間位前から 急に飼い犬が足を四本ともプルプルと振るわせてしまって 立てない 歩けない状態でハーハー言って苦しそうにしている と言う事でした。年齢はまだ五歳と若いのに そのような症状が出ているのは 反って心配かも知れないと思いましたので 外出先から 十五分程度で病院に戻れるところにいましたので 直ぐに来院してもらう事にしました。
車で慌てて 病院に戻り 緊急患者を受け入れる準備をしているうちに 来院されました。呼吸の状態や舌の色を見て 心臓から来る病気だと直感しましたが 始めてみる患者さんなので 取り敢えずはカルテを作り 年齢や食事の与え方 生活習慣などを確認しました。ハーハーゼーゼーと言う状態は 割と普段から見られるのだそうです。心配だったので 近所の病院で診てもらったが その時には ハーハーゼーゼーの症状が見られなかったので 簡単な診察をして 心配する必要はないと言われたのだそうです。
診察台に上がってもらい 体重を量ったり検温したりしてから 目の状態や耳の状態 口の中の歯の様子などを診てみました。特に変わったところはありませんでした。聴診器で心音をきいてみると 明らかにはっきりとした心雑音が確認されました。飼い主さんんに聴診の意味合いや 正常の場合に聞こえる音が何なのか 現在聞えている心雑音が心臓がどの様な状態になっているから 発生しているのかなどを 図に書いて 出来るだけ分り易く説明しました。
この子の病名としては 僧房弁の閉鎖不全症 と言う事になるかと思います。心臓が四つの部屋かな出来ていることは祖存知の方が多いと思いますが 各部屋を血液がスムーズに一方通行するように 各部屋の血液の出入り口に 逆流を防ぐための弁があります。その一つの弁が心臓が拡張してしまったりして きちんと閉じる事が出来ず 隙間が空いて血液が逆流している状態だと思われます。我々が聴診器で確認している正常な心音と言うのは 弁がピタッと閉じる音なのです。所が 心臓が異常な形に変形してしまい きちんと閉じれない場合に血液が隙間から逆流してしまうために 弁が振動してしまい発生する音を心雑音と言いますが この子を聴診するとかなり強い目の心雑音が聞き取れましたので 弁膜症と言う病気であることは 間違いなさそうです。
飼い主さんにすれば 近所の病院で わざわざハーハーゼーゼーと言う症状を心配して 診察してもらったけれど 心配ないと言われていたのに うちの病院で全然違う診断をされたので 最初はかなり途惑っておられたみたいですが 足が震えていた原因は 心臓が血液を循環させるポンプとして十分に働いていないので 血液が足先まで十分に送り込めなくて 例えば正座すると圧迫により足先に血液が十分に送れないために 足先の感覚が無くなり ピリピリと震えるような状態になっていると説明すると 何とかご理解いただけました。
血圧を測定してみました。正常値は 人間とほぼ同じで 収縮期血圧 所謂「うえ」と呼ばれているものが180 拡張期血圧 「した」と呼ばれているものが130でしたから 明らかな高血圧の状態です。聴診器により心雑音が聞き取れる と言う説明よりも 馴染のある血圧が 非常に高い事で いかにこの子の心臓の状態が悪いのか よりリアルに理解してもらえたのかもしれません。体温が39.3度と平熱を上回っていましたので 取り敢えずは涼しい環境においてあげて 落ち着かせてあげることが重要だと判断しました。但し まだ若い年齢なのに心臓がこれだけ悪いので 腎臓や肝臓などほかの臓器にも何か異常があるかもしれませんので 血液検査を一通り実施してみました。肝機能 腎機能などには問題ありませんでしたので 安心して心臓の治療を始められます。お薬と言うのは 一般的に肝臓で分解されて 腎臓からおしっことして排泄されます。ですから腎臓 肝臓に問題がある子の場合 迂闊に薬を投与しにくい場合があるのです。
朝から何も食べていないという事でしたので背中の皮下にブドウ糖入りの点滴を流し込みました。更には 強心剤や利尿剤などを投与して 心臓の状態を改善するための治療を施しました。あとは同様の飲み薬を 一週間分処方しましたので 自宅でのんびりと頑張らない楽ちんな つまり心臓にできるだけ負担のかかりにくい生活を過ごしてもらうように 飼い主さんに説明しました。散歩が大好きだという事でしたが 散歩は勿論運動ですから心臓に負担をかけますし すれ違う犬に対して興奮したり 車が通り過ぎるときに驚いたりして 心臓にストレスになることが多いので 直ぐにとは言いませんが いずれは散歩をやめてしまう方向に考えるようにアドバイスしました。
その日は そのままお帰りいただきまして 翌週の火曜日にまた来院されて 調子がいいので 少し遠いけれどうちの病院で心臓の治療を続けようと考えて下さっているのだそうで わざわざ休診日に 外出先から予定を変更して病院に戻って 診察させて頂きましたので 嬉しく思いました。血圧は150の105にまで下がっていましたので 数値的にも心臓の状態が改善していることが 理解して頂けたようです。そして同じ内用薬を今度は二週間分処方しました。つい先日 三回目の来院をされて 心臓の症状は殆ど見られなくて ハーハーぜーぜーも治まっているとのことでした。血圧も130の90と順調に下がってきていましたので 薬の量を調整して 今度は一月分を処方しました。このままいけば 食事や生活習慣を改めていくことにより いずれはお薬と縁が切れるかもしれないと 話しました。
所が 本日その犬の飼い主さんと同居しているものだと名乗る方から 電話を頂き その飼い主さんが旅行先で 急に亡くなられたことを知らされました。その方の仰ることには その飼い主さんはまだ二十代後半なのに心臓が凄く悪かったようですが 病院できちんとした検査も受けず 勿論治療もしないままに 急死なさったのだそうです。電話をかけてきた同居人の方が言われることには 本人も自覚症状があったことは認めておられたのだそうですが 不養生がたたって 急死されたのだそうです。その死因として分っているのは心臓弁膜症だったというのですから 皮肉なものです。飼っている犬と同じ病気に 飼い主さんも蝕まれていたのです。
その犬も これまで予防らしいことは 何一つせずに飼っておられたのですが 私が心臓に爆弾を抱えているのですから 取り敢えずはフィラリアの予防をしましょうと 薦めると素直に受け入れて下さり 予防薬を一年分渡したばかりでした。飼い主さんは まだ二十代の可愛らしい女性でしたが 結構ポッチャリ気味だったので 診察室でもデブの私が暑いと感じない気温でしたが 汗をかいておられましたので エアコンのスイッチを入れたのが印象的でしたが その辺りにも心臓病の片鱗が窺えていたのかもしれません。
人ごとのように書いていますが 私もずっと心臓病の治療をしておりますし 糖尿病まで併発しております。私も還暦を超えてしまいましたが 何とか80歳までは生きたいと考えておりますので 人のふり見てではありませんが これまで以上に摂生に務めて生活していこうと思います。まだわずか二十代で 亡くなられた飼い主さんのご冥福を 心よりお祈りいたします。

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