6月5日 保護された子猫を預かって 賢明に面倒をみましたが 生き延びてもらえませんでした

連れてこられた男性は 勤めている会社の駐車場のような場所に段ボール箱に入れられて 捨てられている子猫を二匹 とても見捨ててはおけなくて 自宅に連れて帰って面倒をみておられたのだそうです。所が保護した子ネコにミルクを与えても全然飲んでくれなくて 翌日には一匹が亡くなってしまったのだそうです。その方は 基本的にお仕事が夜中の時間帯なので 毎日朝方に自宅に戻り昼間はしっかりと眠って体を休めて夕方から働き始める と言う生活パターンの方なのだそうです。その為に保護した子ネコの面倒が十分に見てあげられないし 一匹が一晩ももたないで亡くなってしまったので 病院で預かってもらい 面倒をみてもらうしかないと考えられたのだそうです。
電話で話を聞いた時には まだ目があいていなくて生まれたばかりかもしれない と言う事でした。確かに診察して体重を量ると200グラム位しかなくて 手のひらに載ってしまうサイズだったので生まれて間もないのかなとも思いましたが 目が開かないのは 目ヤニがこびりついてしまっての事でした。丁寧に瞼を拭いてあげて 目ヤニを取り除いてあげると ぱっちりとした可愛らしい目が開いてくれました。これは風邪の症状の一つで 結膜炎がひどい状態でしたので かなり頻繁に目薬をさす必要がありそうでした。何しろ小さな目ですから 目薬を点眼するのも大変でしたが 取り敢えずは常に目が開いている状態になるように頑張って目薬をさしました。
目薬は 結膜炎の治療に効果があるとともに 目から鼻に抜けおちますので くしゃみの原因である鼻気管炎の治療にも役立ちます。頻繁にくしゃみをしていましたから 鼻が全然効かないので 美味しそうなものが目の前にあっても 感知できないし 食欲も刺激されないので 全然食べてくれないのかもしれません。口の中を見ると 乳歯がきれいに生えそろっていましたから 月齢的には生後二か月前後と思われます。本来なら 少なくとも500グラム以上の体重に成長しているはずなのですが 母猫から十分に授乳されなかったので 成長が相当に遅れてしまっているのかもしれません。既に月齢が二か月ぐらいなら これから順調に体重増加したとしても 一キロ前後にしかならないことが予想されますから 現在の成長状況は かなり心配であることは間違いなさそうです。
現在の所 オスなのかメスなのか判断できませんが 日本人に換算すると 大人になっても体重が20キロから30キロ止まりと予想されますから 普通に生活していくことは難しいのかもしれません。とは言えこの子は現在懸命に生きていこうと頑張っているのですから お預かりした以上は 何とか風邪の症状を鎮めて 食欲元気を導き出して 小柄な体格であるのは今更致し方がない事ですが 何とか自力で生活できるように成長させてあげたいと考えて 精一杯の治療を施しました。
取り敢えずは食べ物を受け付けてくれませんので ブドウ糖入りの点滴を十分量皮下に投与しました。同時に 風邪の諸症状を軽減して 食欲元気が出るような薬を同時に混注と言う形で投与しました。体温が36度前後と低下していましたから 取り敢えずは 体温が平熱である38度台に戻るようにしっかりと温めました。人懐こい性格の様で 頭や体をなでてやると ゴロゴロ喉を鳴らしていましたから 頻繁に目薬を差して その時に体中を撫で回して 慣れ親しみながら 励ましました。
普通は入院と言う形で 預かった場合入院室に入れますが この子はとにかく小さくて目が離せないので 小さなかごに入れて 私が夜になって休むときには二階に連れて行き 頻繁に目薬をさしては体をさすって元気づけました。相変わらず目の前に美味しくて 消化しやすい食べ物をおいても食べてくれないので 注射ポンプの先にゴムチューブを装着した給餌器を用意して 口の中に流し込みました。甘くて口当たりをよくしてありましたので 流し込まれた流動食は 何とか飲み込んでくれて 嘔吐することもありませんでした。
取り敢えずは 点滴で最低限度の栄養補給をして 風邪を治す薬を合わせて投与しましたから 少しずつでも体力が回復してくれることを期待しました。兎に角少しでも早く 旺盛な食欲を取り戻してもらわないと 只でさえ成長が遅れているのに 追いついていくことが期待できません。最初の晩は 一晩で二十回位目薬をさして その度に栄養たっぷりの離乳食を口に流し込みました。おかげで 翌日になると 両目ともぱっちりと開いた状態になり クシャミも殆どしなくなりました。相変わらず自分から器に入れてある食餌には 興味を示してくれませんが 預かった時よりは大分元気よく動き回るようになり 鳴声にも力強さが出てきたような気がします。自発的に食べてくれないので 相変わらず口の中に流動食を流し込んでいましたが それまで殆ど食べていなかったらしいので 排便していませんでしたが 下痢便を垂れ流すようになってしまいました。
直ぐに便検査をしてみましたが 寄生虫などは見つかりませんでした。流動食は 消化吸収しやすくて 栄養価の高いキャットフードに粉ミルクを混ぜたものですから 固形物に慣れていない子ネコでもお腹に負担がかかることはないように思いますが 先天的に消化吸収力が弱いために これまでもせっかく摂取した栄養分を 体の成長に十分に活かせてこれていないのかもしれません。二日目も仕方なく点滴に薬を口中して投与してみました。体温は相変わらず しっかりと温めてやらないとすぐに平熱を下回ってしまいますので なかなか目が離せませんでした。何しろ体が小さいので ウッカリと暖め過ぎると 平熱以上に上がってしまいそうだからです。
同様に多少は元気が出てきたものの 平熱も維持できないし 自発的な食欲も見られないまま 二日目 三日目が過ぎてしまいました。こんな一進一退の状況の場合 自宅に返した方が 気分も変わって食欲元気が回復する切っ掛けになることがありますが この子の場合 連れてこられた方のうちにも一晩過ごしただけですし 仕事の都合上 昼間は猫の面倒が十分には見られないのですから 病院で退院できるめどがなんとか立つまで お預かりするしかないようです。
四日目になっても 相変わらず下痢便が止まりません。流動食には勿論下痢止めも混ぜていますが 効果がありません。食欲も相変わらず 自発的なものは認められません。口に流し込むものは嫌がらずに飲み込んでくれますが 飲み込む量が増えていることはありませんでした。そして本日の夕方から 温めても体温がなかなか上がってくれなくなり 心拍数も低下してしまいましたので しっかりと温めつつ 酸素室に入れて様子を見ておりましたが 徐々に心拍数が低下していき ついには心停止の状態になってしまいました。人工呼吸しながら 心臓マッサージを繰り返しましたが 残念ながら蘇生してはくれませんでした。
せっかく運よく 優しい人の目にとまり 生きるチャンスをもらった子猫でしたが 力強く生きていく体力を持ち合わせないで 生まれてしまったのかもしれません。連れてこられた方の優しい気持ちを無駄にしないように 精一杯面倒を見させてもらいましたが 力及びませんでした。人懐こくて 可愛らしい性格の子ネコちゃんでしたから 何とか普通に生きていくことが出来ます様にと 手を尽くさせてもらったつもりですが いい結果にはなりませんでした。連れてこられた男性に 無くなったことを電話で告げるという 一番つらい仕事をついさっきやり遂げました。
病院に預ければ 元気になってくれると信頼して預けて頂いただけに 残念な報告をするのは辛かったですが 事の経過などを細かく順序立てて説明して この子猫に生きていく体力がかけていたことを 何とかご理解いただきました。動物病院の仕事は 病気やけがで苦しむ動物たちの回復をお手伝いする事です。上手くいって 元気に回復してくれた時の喜びは 非常に大きいのですが 今回の様に 力尽くしても 及ばないで 残念な結末を迎えた時の 悲しさ 虚しさが辛いので 私はさっさとこの仕事から引退したがっているのかもしれません。お酒を飲める方の場合は お酒の助けを借りて気持ちの切り替えが出来るのかもしれませんが 下戸の私はお酒に頼ることが出来ません。大好きな乃木坂のコンサートの映像でも眺めて 気持ちを少しでも癒したいと思います。

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