9月22日 困った飼い主

 本日二人目に来院された飼い主が非常に困った人だったので それについて書こうと思います。来院された理由は二年前から治らずに困っている外耳炎と全身にできる痒みを伴う湿疹でした。他の病院で治療を繰り返しているのだけれどなかなか治らないので 当院へやってこられたのだそうです。これまでどのような診断をされてどのような治療を継続されたのか尋ねると病気の原因については説明を受けていないとのことでした。
 原因を説明しないのは診察した先生が分からないからだろうと思います。勿論私も診察してすぐに病気の原因が分からないことは少なからずあります。治療していく経過で 徐々に原因が分かってくることもよくあるからです。まずわからない場合は正直に飼い主さんに現在の段階では原因が分からないことを説明すべきだと思います。
 原因が分かっていないのに その説明もせずに取り敢えず治療をすること自体に問題があると思いますが、痒みを鎮めるためには消炎剤を投与すれば投与している間は痒みが多少ましになるでしょうし外耳炎も見た目はいくらか改善するかもしれません。でも、湿疹の原因を究明し、外耳炎についてはまずは耳垢を調べて 炎症を起こしている原因を明らかにしなければ 根本的な解決には向かわないことは明らかです。その為に二年間もかかって何の解決も出来ていないのでしょう。
 更に治療の経過を尋ねると どうもこの飼い主は病院の指示に従わず 勝手に自分の判断で治療を止めてしまっているようです。痒みが多少ましになり 耳もそれほどかきむしらなくなると すぐに治療を中断してしまい そのために中途半端に症状が改善するだけで すぐにぶりかえしてしまう事を何度も何度も繰り返しているようです。
 恐らく治療経過としては最悪のコースをたどっているようです。診察している獣医師がきちんと病気と向き合って、原因を解明しようと努力せず 見た目の症状だけを鎮める対症療法に走っているから もともと完治する可能性が低いのに それを中途半端な期間で止めてしまう馬鹿な飼い主が絡んでいるので すぐにぶり返すのを繰り返しています。
 例えば細菌による外耳炎が起こっているとしたら 耳の中には数種類の細菌が増殖して混合感染を起こしているはずです。そこに細菌を殺すための薬 抗生物質を投与すると 細菌の種類によって 薬が速やかに効いてすぐに数が減少する細菌となかなか効かなくて殆ど数が減少しない細菌がいるはずです。勿論薬の効果が出るのに時間がかかるだけで十分な期間適切な治療を継続すればなかなか効かない細菌も駆除できるはずです。中途半端な時期に治療を止めてしまうと 薬の効きやすい細菌が減少したことで 見た目の症状はある程度改善するかもしれません。
 所がその時耳の状態としては薬の効きにくい細菌だけが残っているはずです。尻切れトンボで治療を終わるとこの状態から薬の効きにくい細菌ばかりが増殖して症状としては似たり寄ったりの外耳炎をおこします。すると次に同じ薬を投与しても 薬がなかなか効かない細菌だけが繁殖しているので 同じくらいの期間薬を投与しても 殆ど細菌数が減少せず 症状もあまり改善しないはずです。
 症状が改善している時でさえ 自分の勝手な判断で 治療を止めてしまう飼い主が ほとんど改善が認められなければ 尚更治療を継続するはずもなくて 病院の指示にきちんと従わない自分が悪いのに あの病院に通っても全然治らない と判断して病院を転々とする飼い主は結構います。
 そもそもよその病院の悪口を平気で口にする飼い主は当然当院の事もよその病院に行った時に悪く言うにきまっているのであまり治療する気が起こりませんでしたが「お帰りください」と言うわけにもいかず診察室に入ってもらいました。まず皮膚の状態を確認してから次に耳の状態をチャックしようとすると いきなり噛みつきに来て それもかなりの本気モードです。私は首筋をひっつかんで 噛まれない状態にしてから暴れておしっこをまき散らしてどうしょうもないので ひもで口を括ろうと準備しました。その時に飼い主が「もう結構。犬から手を放してくれ」と言いました。仕方がないので犬から手を放した瞬間に犬が飼い主の手を噛みました。そのまま何の治療もせずに帰っていきました。
 私が「犬ときちんと向き合わないから犬になめられて咬まれるのですよ」と言うと「あんたこそ人間と、飼い主とちゃんと向き合って診察せえよ」とその飼い主は言いました。若い頃の私ならすぐに切れて「己の様な愚かな飼い主やから飼い犬に手を咬まれるのや。そんな馬鹿な飼い主の顔色をうかがって適当な診察治療をしているから2年間もかかって何の成果も上がっていないのや。動物病院なのだから飼い主の機嫌を気にするよりも 動物ときちんと向かい合い病気と正面から取り組むのが当然やろう。このボケナスが」ということばをかろうじてのみこみました。私も体形同様にかなり丸くなったようです。
 犬には飼い主を選べないのでとても可愛そうだと思いました。犬が人間を噛むことは 一番してはいけないことです。人間が犬を飼っているのだから人間の都合でルールは決まってしまいます。人間でも犬でも生まれた時には何の知識も経験もないので 何が良いことで何が悪い事なのか全くわかりません。人間でも最初は親から学校に行けば先生から 社会のルールやマナーを教わります。悪いことをしたら叱られたり 場合によっては罰を受けることもあるかもしれません。
 いろんなことを学習して体験しながら成長していくのです。うっかり悪いことをしてしまったら 本人にすれば悪いことをした自覚がないのだから人間なら親であり先生が、ペットの場合は飼い主が悪いことをしたことを教えてあげて同じことを繰り返さないように導いてあげなければいけません。
 この愚かな飼い主は 自分の犬にかまれたのに犬を全く叱りませんでした。だから犬になめられるのです。だから繰り返し何度でも咬まれるのです。犬ときちんと向かい合って「あなたがいましたことはとても悪いことですよ」と教えてあげないから 咬み癖が全然治らないのです。
 犬はなにも噛むことが大好きだから咬むのではありません。自分の周りに信頼できる仲間が全然いないので怖くてたまらないから相手を攻撃するのです。もし飼い主を信頼していて安心して身を任せられるような関係なら飼い主が傍にいるときは犬が人を噛むことは殆ど無いと思います。犬から信頼されようとすればきちんと犬と向かい合い 勿論かわいがることも大切ですが 悪いことをした時にはきちんと叱ってあげてこそ そこに信頼関係が築かれるのです。
 「犬を叱ると犬から嫌われるから叱りたくない」等と愚かな発言をする人もいますが 根本的に大間違いです。悪いことをした時に叱ってあげないから 犬になめられるのです。犬から一旦なめられたら 信頼されないし、勿論絶対に犬から好かれることもありません。人間関係でも同様でしょう。見下しているような相手と信頼関係なんか築けるわけがないし、そんな相手を本気で好きになるわけがありません。ですから、飼い主はペットに対して常に毅然とした態度で向かい合うことが必要だと思います。
 犬は本来依存心の強い動物ですが この咬み癖のある犬も周りに頼れる存在が全くないので 結局は何時でも自分が矢面に立たなければならず 必要以上に警戒して 怯えて咬むのです。ですから私はこの犬が信頼できる飼い主さんと巡り合えなかったことが凄く可愛そうに思います。でも犬の立場から飼い主は選べないので この子の運命だと諦めるしかないのかもしれません。

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