最近、ニュースで犬のブルセラ病について知りました。初めて耳にする病気なので、どの様に感染して、どの様な症状を起こすのか教えて下さい。


ブルセラ病と聞けば、私はまず牛や豚、羊等のいわゆる家畜に流産を起こす伝染病が頭に浮かびます。犬にもブルセラ キャニスという細菌による伝染性の病気がありますが、普段ペットとして飼われている犬を診察するときには、あまり頭に浮かんできません。(流産を起こした犬を診察するときは別ですけど)
その理由はブルセラ病の感染経路と症状を説明すればお解かりいただけると思います。
ブルセラ病に感染している犬は精液や尿、流産した胎児、悪路(おろ=出産後に胎盤がはがれたあとからの出血や浸出液が生理の様に陰部から滲出したもの)、子宮分泌物等に細菌が存在しますから、それらと別の犬が接触することにより傷口や粘膜から、若しくは経口的に細菌が体内に侵入して感染します。ですから、日常生活の中で例えば、犬同士がお散歩ですれ違って、ご挨拶を交わしたくらいでは感染する心配はありません。細菌が体内に侵入して数週間の潜伏期間を経て感染しますが、一般的な病気の症状(元気消失、食欲減退、嘔吐、下痢、発熱等)は殆どみられなくて、オスは精巣炎、メスは死流産、子宮内膜炎等を起こします。
以上の事からお解かりいただけると思いますが、ブルセラ病は多数の犬が同居して交配や出産の機会が頻繁な特殊な環境、つまり繁殖業を営まれる施設等では感染が広まり、蔓延する可能性があります。けれども、普通にペットとして飼われている犬では現実的にあまり誰かからうつされたり、誰かにうつしたりする事のない病気だと思います。
勿論 犬を購入された場合であれ、拾ったり貰ったりされた場合であれ、飼い主さんのもとに届くまでにブルセラ病に感染している可能性が全くないわけではありません。ただ、ペットとして飼われる犬なら 生涯に一度も交配や出産を経験しない犬も多いわけで、そういう場合はこの病気にもしかかっていたとしても気付かずに一生を終える事でしょう。
もしも、飼い主さんが交配して出産をさせたいが、ブルセラ病による死流産が心配ならば、検査を受けてみるのもよいでしょう。但し、極端な事を言えば、交配する事によりブルセラ病に感染する可能性もあるわけですから、あまり過剰に心配しても意味がないと私は思います。不幸にも死流産を起こした場合は、検査を受けられる事をおすすめしますが、現在普通に生活していて異状がないのなら 必要以上に心配はしすぎない方がよいと思います。例えば、人間が普通の生活をしていたら(血液製剤による治療や輸血を受けたり、不特定多数の人と性交渉を持ったりしたら話は別です)、エイズの心配がいらないのと同様だと思います。
先日、大阪にある犬の繁殖業者が経営破綻して、その施設にいた犬たちにブルセラ病が蔓延していた事が報道されてから、この病気についての問い合わせを数件頂きました。初めてブルセラ病を知られた飼い主さんが心配される気持ちも分りますが、慌てる必要はありません。まずこの病気についての正確な情報を入手して、落ち着いて理解しましょう。
ある程度ブルセラ病について理解できれば、普通にペットとして飼われている犬にとっては それ程恐れる病気ではない事に気づかれるでしょう。

(参考)
ブルセラ病はあまり知られてませんから、極めてまれにしかない病気のように思われるかもしれませんが、実は日本にいる犬の数パーセント(1%という説もあれば5~6%という説もあります)が感染していると推測されています。ですから、ブルセラ病にかかっている犬を飼い主さんは気付かずに飼っていて 何の問題なくその犬が一生を終えるケースが少なからずあるだろう事を知ってください。

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