猫(日本猫、2歳)に避妊の手術を受けさせたのですが、手術中に死亡してしまいました。原因は麻酔が身体に合わなかったからだろうと言われました。事前に麻酔が体に合うか合わないかの検査等すべきだったのではありませんか?


動物病院の獣医師としては、答えにくい内容であり且つストレートな質問を頂きましたのでかなり困っておりますが、逃げずに精一杯のお答えをしたいと思います。
避妊の手術の主な目的は望まれない妊娠を防ぐ事であり結果的に乳腺腫瘍や子宮蓄膿症等の恐ろしい病気を未然に防ぐメリットもあります。つまり原則的に健康な動物に施す手術でありますから、例えば腫瘍の摘出手術のように健康体になる為に行う手術とは、手術の周囲の状況が全く異なります。
相談者が仰るように事前に十分な検査を実施すれば何らかの異状を見つけることが出来たかもしれません。その異状に対して先に治療して健康な状態になってから手術すれば無事に終えられたのかもしれません。治療をしなくても手術する獣医師が異状を認識していてそれなりの準備をしていたら術中に猫は死亡せずに済んだかもしれません。勿論、急ぐ必要の無い手術ですからとりあえず延期若しくは取りやめるという選択肢もあったかもしれません。
只、当院に若くて元気な猫が来院して避妊の手術を希望されたとしたら、過去の病歴や現在の状態等を問診し一般的な診察(体重や体温を測り、目や耳、歯や歯茎、皮膚や毛、爪、肛門等の状態をチェックし、聴診器で心音呼吸状態などを確認、全身の触診等)をして特に心配な点が無ければ、それ以上の検査等はせずに手術の日程を決め準備を始めるでしょう。
もし、猫がかなりの高齢であったり、著しく肥満若しくは削痩した状態であったり、診察して何か心配な点が見つかれば、飼い主さんに説明して了解の上で必要に応じて検査をするかもしれません。相談者の猫の場合、先生から検査の必要性等の説明が無かったとしたら、問診や診察で特に心配な点は見つからなかったのだと思います。
もし手術が腫瘍の摘出の場合なら、飼い主さんに説明し了解を頂いて転移の可能性を危惧してレントゲンを撮影するでしょうし、全身的なダメージや状態をチェックする為に血液検査を行うであろうと思います。
健康である事が前提として行う避妊、去勢の手術で、何も異状が見つからないであろうと推測される検査を実施する事は、レントゲン撮影や採血による猫への負担(大人しい猫なら大したことはありませんが、結構暴れる子が多いです)、手術費用に加えてかかる検査費用という飼い主さんへの負担を考慮すると病院としてもあまりもおすすめ出来ません。
現実的な話をすれば手術の前に検査をすすめその費用まで説明したら丁寧で親切な病院と判断される飼い主さんもいらっしゃるかもしれませんが、もっと安上がりでスムースに手術をしてくれる病院を探される飼い主さんが多いと思います。
正直に申し上げますと、当院でも避妊、去勢の手術で亡くなった動物はいますし、麻酔などが安定しないので手術を中止したケースもあります。残念な事ですが、同様の悲しい事故が起こっている病院は少なからずあると思います。
私は、避妊手術中の事故が起こって以来、同様の手術をする場合、健康診断的な意味合いも含めて術前検査をする事を簡単にですがおすすめしています。数百人の飼い主さんに説明しましたが検査を希望された方は現在の所二名だけです。
相談頂いた飼い主さんももし術前に万が一の危険性を探す検査をすすめられたとして、快く承諾されたでしょうか?そしてもう一つしっかりと認識していただきたい事ですが検査を受けたとしても、死亡原因が確実に見つかる保障はどこにも無いという事です。
人間の場合どのような手術に対してどの程度の術前検査が実施されるのか分かりませんが、動物の場合残念ながらある程度の限界がある事は理解して頂きたいです。私達獣医師は、この様な不幸な事故が起こらないように出来る範囲で精一杯の準備をし、集中して手術に取り組んでおります。とは言っても人間のすることであり、生き物を相手にする事ですから、絶対に安全な事など無いと思います。自分の大切なペットを失った飼い主さんには、このような事情を100パーセントではなくても、その何割かを理解し納得していただくしかないと考えますが、如何でしょう。

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