11月2日 猫の急患を預かりましたが 力及ばず亡くなってしまいました

昨日の早朝五時頃に電話がかかってきて 猫の容態が急に悪くなったので 診て欲しいとのことでした。症状としては 急にけいれんを起こして苦しんでいるとのことでした。飼い主さんの悲痛な声をきいて 直ぐに来院してもらう事にしました。割と近所の方だったので 私が病院に降りて 検査の準備などをして表のシャッターを開けるとすぐにやって来られました。

話を聞くと 二か月前ぐらいから尿石症にかかっていて 他の病院で治療をしていたのだそうです。昨夜までは普通に生活できていたのだが今朝がたから急に痙攣を起こしてのた打ち回っているのですぐ診てもらいたくて来院されました。おしっこは昨夜普通に出ていたのだそうですが 触診すると膀胱に全然尿が溜まっていませんでしたので 尿検査は無理みたいでしたから 取り敢えず血液検査をしてみました。

異常が見られた項目は白血球とそう蛋白がかなり高いので細菌による感染症が想定されました。腎機能を表す尿素窒素とクレアチニンがこれもかなり高かったので 腎臓が正常に尿を作っていない状態 即ち腎不全が考えられました。血球容積比も高いので 脱水が起こっていることも分りました。痙攣は恐らく腎機能の低下によって 有害物質である尿素窒素やクレアチニン、アンモニアなどが体に蓄積したことによる症状であると想像されました。

診察したのが朝方の五時頃でしたが膀胱に全然おしっこが溜まっていなかったので 腎臓が尿を殆ど生成できていないのであれば かなり心配な状況であることは飼い主さんに話しました。取り敢えず治療としては 脱水していますしご飯を食べるどころの状態ではないので 皮下点滴で水分と栄養分を十分に補い、更に腎臓の機能の改善を目指す薬や細菌に対する抗生物質、続いている痙攣を鎮めて楽にしてあげる薬などをたっぷりと投与して様子を見ることにしました。

他の病院にかかっておられる方なので そのままお返しするつもりでしたが 点滴が終わるころに 心配なので入院させてもらえないかと言われました。私としても初めて見る猫なので 経過が心配でしたからお預かりすることにしました。まあ預かっても当面は投与した薬が効いてくれるのを期待しながら見守ることしか出来ませんが 飼い主さんとしては痙攣の続いている猫を連れて帰っても とても見ていられなかったのだと思います。

入院室の準備をしてお預かりしました。一旦帰宅して頂きましたが 朝九時に病院の診察時間が始まったらすぐにまた様子を見に来られました。九時過ぎには お預かりした時に起こっていた痙攣は 鎮經剤が効いてくれたみたいで 何とか治まっていました。飼い主さんは直ぐに退院できると勘違いされましたが ようやく表面的な症状である痙攣が治まっただけで 肝心のおしっこがまだほとんど出ていませんでしたから 危機的状態であることは変わりないことを説明しました。

何とかおしっこを出してもらいたくて 利尿剤などを追加で投与してみましたが なかなかおしっこが出てくれません。そのままの状態で夜になってしまいました。夜十二時を過ぎたころからまたどうにか押さえていた痙攣が再発してきました。おしっこで排泄すべき有害なむっしつがどんどん体に蓄積していっていますから 致し方のないことです。昨日まで普通に尿が出ていたという話だったのが あまりに急な腎機能の低下には正直かなり途惑ってしまいました。

人間で腎機能の低下した方は 定期的に人工透析を受けて 血液にたまった有害物質を取り除きます。動物でも透析治療は出来ないことはありませんが かなり高額の費用が掛かってしまうみたいですし 普通の動物病院では対応できません。うちの病院で対応できる手段としては腹膜透析と言うのがあります。服控内に温めた生理食塩水を流し込んで そこに有害物質を吸収させておいて その食塩水を抜き取ることで有害物質を排除する方法です。

但しこれも一時しのぎの方法であり そこそこ費用も掛かりますし 根本的な解決に向かう治療法ではありません。夜が明けてから 飼い主さんに説明して 腹膜透析を実施するか否かの相談をしようと考えていました。所が明け方六時頃に痙攣が一気に強まって 呼吸停止 更には心停止の状態にまで進んでしまいました。

こんなことなら昨日のうちにお返ししておいた方がよかったかなとも思いましたが 息を引き取る間際の糞を撒き散らしながらのた打ち回る状況は 飼い主さんが見ない方がよかったのかもしれません。病院で息を引き取った場合には 必ずお返ししておいた方が と考えてしまいますが なかなか判断の難しい問題だと思います。

患者さんが亡くなってしまったことを飼い主さんに知らせる電話をかけるときが 動物病院で一番つらい仕事かもしれませんが 先ずは自分の心をきちんと整理して 状況を分かり易く説明できるように準備して電話をかけます。直ぐに飼い主さんは迎えに来られてお返ししました。幸いなことに飼い主さんが 病状の説明をきちんと理解されて 受け止めて頂けたので 助かりました。

病院としては出来うる最善を尽くさせて頂いたつもりですが その辺りを理解して頂けない飼い主さんの場合は 動物が死んだことだけで悲しいのに この仕事をしていて何とも虚しくなることも時々あります。病院ですから 悲しいことですが動物が死んでしまう事も 日常茶飯事であります。気持ちを切り替えて 更に仕事に邁進しようと思いました。

 

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