7月25日 安楽死について思う事

コロナ禍のニュースばかりがあふれている昨今 ショッキングだったニュースが 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性に対する嘱託殺人容疑で医師2人が逮捕された事件です。この病気については 現在の所 有効な治療が見つかっておりません。自分の体が思い通りにならないのですから 凄く肉体的にも精神的にも苦しいだろうし 周囲の負担になっていることに対する申し訳なさも痛感する毎日だと思いますから 死にたくなる気持ちは凄くよく分かるような気がします。私も還暦を通り越して久しいですから 自分の老い先について考えてしまうことがあります。私は どうしょうもない位に我儘で独善的な人間ですから 周囲の人間 奥様やあまり会う機会はありませんが 近所で暮らしている妹や父親 そして親戚筋 仕事で接触するペットの飼い主さんなどに 自分で思っている以上に迷惑をかけ 不快な思いをさせているのだと思っております。
ですから 自分の死に際ぐらいは 出来るだけ身近な人 と言っても奥様だけですが これまで以上の負担はかけたくないと考えております。希望としては よくピンピンコロリと言われますが 前日までぴんぴんしていて 異変が始まったらあっという間に絶命するのが理想的だと思っております。無駄に延命するための治療などは一切したくありません。苦痛と周囲への迷惑を増大するだけだし 死に際の苦しみを長引かせるだけだし いらぬ治療費など使いたくありません。一円でも多く 奥様のその後の生活に役立ててほしいと思ってしまいます。葬式なども時間とお金の無駄だと考えますので 何だったら病院から直接火葬場へ遺体を搬送してもらっても 文句はありません。正直言えば 私の葬式なんて企画しても 誰一人として参列してもらえないのが 心配だからこんなことを考えているのかもしれません。
日本では 安楽死を公式には認められておりません。これまでに安楽死を幇助した医師が 罪に問われなかったケースがないことはないようですが ごくまれな話みたいです。治療法のない病気に苦しむ患者の主治医が その苦痛を早く終わらせてあげるのが 本人にとっても家族にとっても最善の選択であると判断して 安楽死を幇助した事例が詳しいことはよくわかりませんけれど 過去にあったのだそうです。今回のケースは その時の事例と比較してみると 幾つか相違点があるみたいです。
まずは逮捕された医師たちが 亡くなった方のこれまでの治療に直接関与していなかったことです。主治医であれば ひょっとしたら病気の始まりの時点からの 経過を熟知していて 本人の気持ちやご家族の意思を十分に把握できていたはずです。医者だって 治療をしていく段階で 今後どのようなプランで患者さんに対応していこうかと いろいろ考えながら仕事をしています。治療の効果が全く現れず 患者さんの苦痛を少しも安らかにしてあげられていない事が 分かっていれば 患者さんが安楽死を希望しても致し方がないのか否かについても 十分考える時間があるはずです。
但し 本人の気持ちだけで 安楽死の方向に考えるのは 浅はかすぎます。患者の家族にしてみれば 普通一日でも長生きしてもらいたいと考えるはずですし 少しでも長生きしていれば 凄く運が良ければ 生きているうちに有効な治療法や治療薬が見つかるかもしれない と希望を持っておられるかもしれません。勿論 家族が本人の現在さいなまれている苦痛を本質的に理解できていない場合も多々あるのかもしれません。その点については 主治医から 実感しやすいような的確な病状の説明が必要であると思います。
亡くなられた方のお父さんが インタビューに答えておられる映像をニュースで何度か見ましたが 少なくとも お父さんは 患者さんが安楽死を望んでいる気持ちには 全く気付いておられなかったようだし そこまで考えてしまうご本人の苦痛についても 十分には理解されていなかったように思います。苦痛にさいなまれ続ける患者さん本人は 安楽死を選択することによって 辛くてt真rない毎日から解放されて 楽になれるので 安楽死えを望まれてしまったのかもしれませんが ご家族の一日でも長く生きていて欲しい という気持ちが十分に伝わっていなかったのかもしれません。
十分に大人の年齢に達しておられた患者さんですから 重大な決断を自分の意志で下すことは 当たり前かもしれませんが 残された家族の気持ちに対する考慮が不十分であったように思えます。かくいう私も 自分の意志通りに体がコントロールできなくなってしまったら 生きていたくない気持ちになると思います。その場合 私には家族が奥様しかいませんので 奥様に私の意志をきちんと伝えて納得していただければ 安楽死というのも 選択肢の一つに加えて対応を考えるかもしれません。
仕事柄 ペットの安楽死と向かい合わねばならない場面に 一年に何度か遭遇してしまいます。当院で ずっと治療を頑張ってこられたのだけれども 万策尽きて 苦痛を引き延ばすだけにしかならない延命治療を続けたくない と望まれる飼い主さんがいらっしゃるケースが 稀にあります。かなりの苦痛を伴う治療を頑張って続けてこられたのにもかかわらず 明らかな効果が認められなければ 安楽死という選択肢が 飼い主さんの頭に思い浮かばれても 不思議ではありません。
安楽死については 絶対に拒否される先生も珍しくありません。でも私は 十分に手を尽くしたうえで ペット本人が味わっている苦痛や 飼い主さんの心労を考え併せたら 究極の選択として 安楽死を断固拒否は出来ないと判断しております。当院で 治療していてその経過や飼い主さんのお気持ちが十分に理解できる場合には 強く望まれれば 実行する場合があることは事実です。ただ時々困ったケースに出会ってしまうことがあります。他の病院にかかって 治療を頑張ってこられたのですが ペット本人の苦痛は凄く大きいし 飼い主さんとしても現状が長引く事が辛くて 安楽死を希望したのだが その先生が安楽死を絶対に認めない立場の方であった時に 安楽死だけを求めて 当院に電話がかかて来たりすることがあります。
そんな場合は まず診察させていただいて 必要と思われる検査を実施して その子の現状を十分に把握してから これまでの経過をお尋ねします。そのうえで 安楽死が適当である 他の選択肢が見つからない と判断せざるを得ないような状態の場合には 安楽死を実行する場合もないではありません。但し 勿論こちらとしては 非常に気の進まない 処置を執り行うわけですから その場合は費用をそこそこ高い目に請求してしまいます。私だって 病気やけがで苦しんでいる動物を助けたくって 動物病院を開業して 頑張って経営を続けているわけですから 動物を死なせる処置なんて 本当は絶対にやりたくはないのです。でも世の中には 私の気持ちに反する事でも 必要なことがあると考えて 泣く泣くその処置を行っていることをご理解ください。
話を 今回のニュースに戻しますが 患者さんが安楽死について ご家族と十分に相談されていないことが とても残念に思います。そして当然主治医の先生に 安楽死を希望したけれど 却下された経緯があって 安楽死処置を幇助してくれる医師を恐らくネット辺りで求めたところ 逮捕された医師が名乗り出てきたのではないでしょうか。その医師たちと患者さんの関係がまだ明らかになっていませんが それ程密接なつながりはなかったように思われます。そのうえ 安楽死の実行の謝礼として かなりの金額の受け渡しがあったようなので どう考えてもこの医師たちが 小遣い銭稼ぎに 安易に安楽死を請け負ったかのような印象を持っております。
だとしたら 明らかにこの医師たちが行った安楽死の幇助は 殺人と判断されても致し方のないことのように思われて 非常に不愉快な気持ちになります。治る見込みのない難病で苦しんでおられる不幸な患者さんの 死にたくなる気持ちに付け込んで 小遣い稼ぎをしたのだとしたら 厳罰に処されるべきだと考えます。コロナ禍のニュースだけでも 暗く悲しい気持ちになりますし 政府のあまりに無能であり無責任な政策にも 非常に腹が立っておりますが それ以上に残念であり悲しいニュースだと思いました。

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