1月31日 猫の安楽死をしました

その猫ちゃんとの出会いは 火曜日の夜遅くに、電話があって おしっこが出ていないとの事でした。おしっこが出ない状態は三日続くと死に至りますから 緊急事態と判断してすぐに来院してもらいました。年齢は二歳とまだ若くておしっこが詰まったのも初めてという話でしたので、完全に尿道が詰まっているとしても カテーテルで道を作ってやれば 解決できそうに思いました。

診察台の上で膀胱を圧迫してみましたが全くおしっこが出る気配がないので 直ぐに預かって尿道カテーテルでおしっこの出口を作ってやる処置をすることにしました。まずは弱めに麻酔をかけてから 尿道カテーテルを挿入しようと試みました。所がいきなりおチンチンノ先から五ミリぐらいの所で 詰まっていて先にすすめません。水圧をかけて押し込むとなんとかその部分の詰まりを突破して先にすすめました。所が 今度は二センチ位の所でまたすすめなくなりました。超音波水を噴射してやると なんとかその部分の詰まりも突破できました。

所が四センチ位すすんだところで再び詰まってしまって うんともすんとも動けない状態になってしましました。私はこれまでの経験から もう無理だと判断して諦めかけましたが 奥様がこれまでも詰まった状態から何とか進んでこられたのだから もう少し粘ってみようと提案されました。私も気を取り直して ダメ元でもう一度チャレンジしてみました。すると奇跡的にそのつまりも突破できて膀胱までカテーテルを通すことが出来ました。

まずはたまりにたまったおしっこを吸い出してあげました。温めた生理食塩水を 送り込んで膀胱内を洗浄して絞り出す作業を三回ぐらい繰り返しました。普通ならカテーテルを抜いて自力で排尿が出来るかどうかを判断するところでしたが この子の尿道の状態ではカテーテルをうっかり抜いてしまうと再び挿入できる保証がなかったので そのままカテーテルを縫い付けて留置することにしました。

首にはカテーテルを引っこ抜かないように エリザベスカラーを装着しました。翌朝になってもカテーテルからは順調におしっこが出ていましたし、すごく大人しい猫のようでしたので 飼い主さんに迎えに来てもらいました。とりあえずはおしっこが出る状態になりましたので 一安心しました。

所がお返ししてから家では猫の様子が一変したようでした。割と体格の良い猫だったのでエリカラーも普通の猫用よりも一回り大きくて丈夫なものを装着してお返ししたはずでしたが 一晩のうちにエリカラーは見事に破壊されてしまい、尿カテーテルも おチンチンの先から出ている部分を喰いちぎられてしまいました。

これまでにもエリカラーが外れてしまって カテーテルを引き抜かれてしまう結末は何度も経験していました。所がカテーテルのおチンチンから外に出ている太くなっている部分だけを喰いちぎられて なんとカテーテルが 尿道の中に入り込んでしまったのです。なんとか引き抜こうとしましたが上手くいきません。

その時点では一応管が尿道を通っている状態なのでおしっこが少しずつですが出ていましたが カテーテルが詰まってしまったら 如何ともしがたい状況でした。そのまま一日状況を見守りましたが 案の定カテーテルが詰まってしまい おしっこがまた全くでない状態になってしまいました。

現状から脱する方法としては 開腹して 膀胱まで開いて中に入り込んでしまったカテーテルを除去するしか方法がない事を飼い主さんに説明しました。ご了解を頂いて直ぐにその手術を始めました。膀胱はおしっこが充満していて破裂しそうな状態でしたから 腹腔内を汚染しないように細心の注意を払って膀胱を切開しました。指で探ると簡単にカテーテルが見つかりましたので 指でつまんで除去しました。

尿に直接触れて汚染されましたので 手袋と手術道具を新しいものと交換してから 膀胱を閉じる作業にかかりました。膀胱を切開するのは久しぶりだったので 手術の手引書を読み返して 吸収性の縫合糸で二重にシッカリと縫合しました。それからお腹をとじ合わせて手術を終わりました。普通ならここで終了でしたが この子の場合は 更に尿カテーテルの挿入の作業が待っていました。

前回にカテーテルを挿入してから丸三日間カテーテルは留置されていましたから 今回はある程度簡単に挿入できることを期待してその作業を始めました。ところが 前回おチンチンノ先から四センチ位の所で詰まってしまいましたが 今回も同じところで再びにっちもさっちもいかない状態になってしまいました。

三日前にはその状況を何とか打破できましたから 今回もなんとか挿入しようと試みましたが 一時間以上地道な作業を続けても無駄でした。直ぐに飼い主さんに電話をかけて現状を正直に説明しました。このままでは正常な状態に尿道が回復することを期待するのは難しい事と 尿道を腹部に引っ張り出して縫い付ける手術が必要になりそうであることを説明しました。

飼い主さんからは 手術の費用と術後の排尿について尋ねられました。これまでにも相当な金額の治療をさせて頂いていますので 手術の費用を心配されるのは当然だと思います。術後の排尿については 例え手術が上手くいっても 本人の意思とは無関係に腹部の排尿口からおしっこが漏れだすので おむつの装着が必要になりますが エリカラーを破壊してしまう猫ちゃんの性格を考慮すると おむつの装着は難しいかもしれないことまで説明しました。

飼い主さんは一旦猫ちゃんを連れて帰宅されましたが 尿毒症の初期症状である嘔吐を繰り返すようになりましたので また連絡がありました。手術の費用の面からも 術後の生活の面倒をみることからも 手術を選択できない、とのことでした。かといって尿毒症の今後の症状を見ていられないので 安楽死を希望されました。

私は病気の動物を助けたくて 動物病院を開業したわけですから 勿論安楽死などしたくはありません。しかし、飼い主さんの経済状態や 面倒をみていくときの大変さを考慮すると どうしても選択肢の一つとして入れておかざるを得ない場合がこれまでにも何度か経験しました。

今回の猫ちゃんの場合もご家庭の状況などをお聞きすると 安楽死も致し方のない事かもしれないと 判断して その処置を引き受けることにしました。これまでに安楽死をした動物は ある程度高齢であったり、癌の末期であったりしましたから 割と短時間で心停止の状態になりましたが この子はまだ結構若い年齢でしたので 心停止まで時間がかかってしまい 辛い時間が長かったので 処置を終えた後の疲れが 強く感じました。安らかに眠ってくれることを心からお祈りいたします。

何度経験しても 安楽死という処置は辛い仕事です。けれど私たちの仕事は 動物の苦痛を取り除いてあげることと 飼い主さんの気持ちを救ってあげることだと思いますから 今後も必要であると判断した時には 逃げないで向かい合おうと思っています。

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