10月29日 悲しいお別れが 続いてしまいました

生あるものには 必ず死が訪れるものです。私だって 何時人生の最後を迎えてしまうか分かりません。心臓病を患っておりますので 定期的に病院に通って 優秀な先生による診察と検査を欠かさずに受けておりますので いずれはその心臓病が私の人生にとどめを刺すのかもしれませんが それはまだ当分先の話になりそうです。とはいえ ほとんど毎日車を運転しておりますから こちらがいくら安全運転を心がけていても 命に関わる交通事故に巻き込まれるかもしれませんから 突然の死が訪れる可能性は 否定できません。一応きちんとした形の遺言証を作成して 奥様に預けてあります。もし私に何かあれば 私の所有するすべての財産を 奥様がきちんと受け取れるように 書面でしたためてありますので もし私に不意に何かあっても 奥様が少なくとも金銭的に苦労されることはないはずです。
ペットは もともと人間よりも寿命が短いので 飼い始めるときに その平均的な寿命を知って いずれは寂しいけれどお別れの時期を必ず迎える覚悟をして 面倒を見始めていただきたいと私は思っております。うちの病院に長年通ってくださった老犬が 飼い主さんが帰宅された時には 既に呼吸が停止していて 体温も下がってしまっているので 死亡してしまったのだと思うけれど 一応先生に診察してもらって きちんと死亡したと診断していただきたい という電話が 夕方の診察が始まる少し前にかかってきました。
すぐ近所の方だったので 私は聴診器と体温計だけ持って そちらのお宅に駆け付けました。診察すると 確かに呼吸は完全に停止していますし 触診で明らかに体温が大幅に低下していて 足先に硬直が始まっていました。念のため 聴診器を当てて 心音が全く停止していることを確認しましたので 既に覚悟はされている飼い主さんに 既に死亡していることをお知らせしました。ここ三年ほど 心臓弁膜症の症状が顕著に表れて それから生活習慣や食習慣などを指導しました。大好きだったけれど 既にふらついていた散歩を止めてしまって 食事を心臓が悪い子のための処方食に頑張って切り替えられました。心臓の悪い子のためのフードは 人間と同様に塩分を極端に減らして作ってあるので 口当たりがよくないので 切り替えにチャレンジする飼い主さんは そこそこいらっしゃいますが 大抵は途中であきらめられる方が多いのですが この飼い主さんは 心を鬼にして 何とか長生きしてもらうために 頑張って処方食と水だけの食習慣に見事に切り替えられました。
血圧が高いし 少し興奮しただけで ぜーぜーと咳き込んでしまいますので 利尿剤つまりおしっこをたくさん出して血圧を下げる薬と 気管支拡張剤即ち気管を広げて 呼吸を楽にして咳を鎮めるお薬を 指示通りに頑張って継続されました。治療を始めた時には 血圧が収縮期が200を超えていて 拡張期も150を超えていましたから 正直な所 あと数か月持ってくれればいい所だろうと思っておりましたが 飼い主さんが 私の治療方針をきちんと理解して 懸命に実行されましたので 血圧も順調に下がり 心音も心雑音が大分軽微になってきてくれて 先月で治療を初めて三年間 何とか生き延びてくれました。だいぶ涼しくなってきていたので 上手くすると来年の春までもってくれるかもしれないねと先週お話ししたばかりでしたが 昼間結構暑くなり一日の寒暖差が大きかったことが 心臓にとってストレスになってしまったのかもしれません。
飼い主さんとしては 心臓の治療を始めた時から 何時最期を迎えるかもしれないと 覚悟は決めておられたようでしたが 自分が出かけている間に死期を迎えてしまって 最期を看取ってあげる事が出来なかったことが 残念で悔しいし この子が可哀そうでした と仰いました。お一人暮らしのご婦人ですから お留守にされることは 致し方のないことなのですが 最期を看取ってやれなかった悔しさは そんなに簡単に消えてくれないでしょうと仰いました。ペットの最期に立ち会うことは 臨床獣医師としては 日常茶飯事ですが 本当に頑張って 大切に面倒を見ておられた飼い主さんのお気持ちを考えると 私も相当に落ち込んだ気持ちになりましたが 診察時間が迫っておりましたので 心からのお悔やみを申し上げて その場を立ち去りました。
慌てて 病院に戻ると 待合室で 昨日心臓発作を起こして お越しになったワンちゃんが 待っておられました。すぐに診察室に入っていただきましたが 昨日は 殆ど心臓が停止しかけた状態でしたので 入院室でお預かりしました。強心剤や血管拡張剤 利尿剤などを目一杯量投与して 酸素室に寝かせましたら 三時間ほどで 何とか普通に呼吸ができるようになりましたので お返ししたのですが 先ほどまた発作が起こってしまい 何度か呼吸が停止しかけたのだそうです。私が聴診器を当てているときにも 呼吸が停止しかけましたので 慌てて胸をマッサージして 呼吸を呼び起こしました。
この飼い主さんは 昨日当院に始めてお越しになったのですが それまでかかっていた病院で 心臓の治療をすすめられてはいたのですが 費用や投薬などの手間暇をかけられないので 敢えてほったらかしにしていたのだそうです。すぐに酸素室に入れる準備をしましたが 飼い主さんがもうこれ以上の治療は 苦しみを長引かせるだけだと判断されてしまいましたので 応急処置的な薬を注射で投与しただけで お帰りになられました。どのような飼い方 どんな治療に対する考え方を持たれようと 所詮ペットは飼い主さんの持ち物ですから こちらからどうこう指示を出来るものではありませんが もう少しペットが長生きできる方法を考えてあげれば まだまだ長生きできそうな子でしたから とても残念な気持ちになりました。ペットには飼い主さんを一切選べないので 猶更この子が可哀そうになりました。自宅まで車でもそこそこの時間がかかる所からお越しになっていましたから 恐らく自宅につくまでに 完全に呼吸が停止してしまい 引き続き心臓が停止して 死に至るだろうと思われます。
少し前に 本当に最後まできちんと手を尽くされていながら たまたま出かけている間に最期を迎えてしまって 看取ってやれないことを心底公開されている飼い主さんの 悲しいお別れのシーンに遭遇した直後に 簡単に治療をあきらめて まだあと幾らかでも生き延びれるチャンスが結構ありそうな子が 恐らく息を引き取ってしまうのでしょうから 何ともやるせない気持ちになってしまいました。
この仕事は 上手くいけば 動物が元気に回復してくれて 飼い主さんにも感謝されて 自分なりに仕事を頑張ってよかったなと 思える素晴らしい職業だと思いますが 本日のように 悲しいやるせない気持ちになることもありますから 辛いことも少なくありません。仕事なのですから 辛いことや嫌な思いをすることがあるのは 当たり前すぎる事ですが やはり立て続けに凄く残念な場面に遭遇してしまうと ダメージが大きいです。可愛いなーちゃんの写真集でも眺めて 気持ちを奮い立たせて 今後の仕事に頑張ろうと思います。

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