4月19日 畜産業まで この感染症騒ぎの被害を受けているのだそうです。

知り合いに 滋賀県で 肉牛を育てている牧場を経営する人がいます。詳しくは知りませんが 日本の三大和牛の一つとされる 近江牛を育てて 出荷していることに とても誇りを持っておられました。ちなみに 三大和牛とは 他に松坂牛と神戸牛のことを指すのだそうです。但し この三大和牛とは 自分たちで勝手にそう名乗っているだけなのだそうで 一説によると松坂牛、神戸牛と山形の米沢牛を称する という説もあるのだそうです。まあ私たち消費者から見れば 美味しければ呼称なんてどうでもいいように思います。
肉牛を育てる牧場を経営するのは 素人が想像する以上にずっとずっと大変なお仕事みたいです。私たち獣医師も 大学の授業のカリキュラムに牧場実習というのがありまして 確か一週間ほど 牧場に泊まり込んで 作業のお手伝いをさせていただいた経験がありました。お手伝いとは言っても 全く経験のない学生が ウロチョロしていただけで 実質的には殆どお役に立ってはいなかったように思います。長靴を履いて 作業着を着て 牛舎の掃除をしたり 教えられた餌を準備して 牛たちに給餌したりしましたが 想像以上に臭いし汚いし 勿論掃除もきちんとできたわけではないでしょうし 餌やりも上手にできたわけがございません。
まあクラスの友人たちと 同じ部屋に寝泊まりして 同じ釜の飯を食ったわけですから あまり楽しくない修学旅行のようなものだったのかもしれませんが 牧場のお仕事の大変さを 身をもって経験させていただいた 貴重な体験だと思っております。そんな大変なお仕事を毎日毎日休みなく続けておられる知り合いの方なので 私にはとても務まらない激務を文句ひとつ言わず こなされていますから とても尊敬しております。何しろ 一年365日 毎日牛の世話をしなければなりませんから 週休二日に一年十日以上の有給休暇が認められているのサラリーマンには 絶対に務まらない本当に大変なお仕事なのです。牛たちにとっては お盆もお正月もありませんから 元旦ですら普段と同じように作業をしなければならないのです。
一旦牧場の仕事を始めてしまったら 一日も牧場を留守に出来ませんから その仕事を廃業するまで 旅行にも出かけられないのです。私のような 根っからの怠けものは 勿論最初から牧場経営のお仕事など目指しもしませんが その延々と続く大変さ 辛さの片りんを知っていた私は その知り合いが この仕事を始めようと考えている段階で 申し訳ないけれど やめておいた方がいい とアドバイスを送りました。しかし その方の牧場の仕事に対する熱意は 本物だったみたいで 三十年近くも 牧場経営を立派にこなしてこられました。少しずつ 着実に 肥育頭数を増やしていて 仕事としてはかなり順調に来ていたようです。
具体的なお仕事は 子牛を購入してきて 二年から三年かけて 五百キロ位になるまで育て上げて 出荷するのだそうです。競りにかけられて 一キロ二千円から三千円位の値が付いていたのだそうです。餌代や 牧場を維持するための経費 人件費などを差し引くと かけた手間暇の割には それ程大きな利益ではないのかもしれませんし 大切に育て上げた可愛い牛たちのその後の運命を考えると 手放しでは喜べないのかもしれませんが 何とか家族が不自由なく生きていくだけの利益は 生まれていたのだそうです。
所が この感染症騒ぎで 食べ物屋さんが一斉に休業してしまいましたし 和牛を喜んで食べてくれていた 外国人旅行者が激減してしまいましたので その需要が急激に縮小してしまって 和牛の買い取り値が 半額ほどに下がってしまったのだそうです。半額では かかった経費の回収も出来ない金額ですが 出荷を遅らせても 餌代がかかるばかりで それ以上体重は増えないし 肉質も落ちていくらしいので 出荷せざるを得ないのだそうです。
丹精を込めて育て上げた 可愛い牛たちなのに 自由主義経済では 需要が小さくなれば 価格が下がるのは 致し方のないことかもしれません。しかしこの牧場経営者は 真面目に一生懸命 長年にわたって仕事を続けてきましたが それ程貯えがあるわけではないので この状態が続けば あと少ししたら 牧場経営を継続できなくなるのだそうです。本当につまらない病気が 流行しただけのことで 真面目にコツコツと頑張ってきた人の人生が 崩壊しようとしています。本人が さぼったり 失敗をしでかしたりしたのなら これまで積み上げてきた人生が一瞬で崩壊しても致し方のないことかもしれませんが 何の落ち度もない人間のこれまでの努力 頑張りが消失してしまうのは 納得がいきません。
無力な私には 彼に何にもしてあげられませんが 国や県からの十分な補助金で 何とか仕事を継続していける状態になってほしいと思います。真面目に 地道に 懸命に生きている人が 安心して 幸せに生きていける日本になって欲しいと 心底思います。

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