4月4日 自らシッポを食いちぎった犬が来院しました。

人間でも 自らの体を傷つけてしまう精神的に不安定な方がいらっしゃいますが 犬にも似たような精神的に異常をきたしているために 問題行動を起こしてしまう子がたまにいます。数人からなるご家族で飼っておられるワンちゃんなのですが 一人の方が一応犬係みたいな立場で 主に面倒をみておられるのだそうです。その方が春から就職活動を始めて それまでよりもかなり多忙になってしまったみたいなのです。忙しいので どうしても犬の面倒をみる と言うか相手をしてあげる時間が短くなってしまったのだそうです。
この犬は かなり寂しがりの子みたいで 以前にもやはりしばらくほったらかしにされた時に 同様の自傷行為 つまりシッポの先を食いちぎった事件が起こしたことがあるのだそうです。その時もシッポの先を縫い合わせる手術をして 精神的に弱い子の場合なかなかその症状は改善しないので 出来るだけこまめに面倒をみてあげるようにと指示されていたのだそうです。しかし犬係の方も 就職活動は ある意味自分の一生がかかっている重要な活動ですから 懸命に頑張っていて つい犬の相手をするのがおろそかになってしまったら 二日前からまたシッポを咬みだして 先程気が付いたらまたシッポを食いちぎっていて 出血が止まらないのだそうです。
朝まで放っておけない と言う事なので来院してもらいました。診察するとミニチュアダックスフントで 興奮しているのかと思ったら 本人は至って落ち着いていて 凄く大人しくて自傷行為等と言う激しい行動を取る犬には全然見えませんでした。食いちぎられた尻尾をみると 予想していたよりもずっと根元に近い辺りから食いちぎられていました。今回が二回目であるのは分っていましたが 恐らくシッポ全体の三分の一位が無くなっているみたいです。
自らが食いちぎった後ですから 皮膚は勿論引きちぎられたような状態でしたし 肉もギザギザしか残っていなくて 真ん中の骨も少しですが突出している状態でした。出血が続いていましたから 直ぐに預かって 止血して傷口を縫合する手術が必要です。飼い主さんとしても 二回目の経験ですし 今回の方が当然シッポのより太い部分から食いちぎっているので 手術せざるを得ない状況は 理解しておられましたので 速やかに預かって 手術の準備を始めました。
時間外の事ですから 先ずは奥様に呼び出しの電話をかけて 招集しました。手術に使う鉗子や把針器、ハサミなどを手術がに使えるように十分に消毒して シッポの手術用の覆い布や 術野を清潔にするためのアルコール、術野用消毒薬 等を準備しました。導入麻酔薬を吸入している時に奥様が到着されましたので 出血の続いている状態ですから 早速手術を始めました。取り敢えずは麻酔をかけました。十二歳とある程度高齢の子なので 慎重に麻酔を維持しながら 術野となるシッポの状態を確認しました。
何しろ自分で食いちぎっているのでギザギザでとてもそのままでは縫合できないので 先ずは皮膚の部分のトリミングをしました。かなり突っ張って縫合することになるでしょうから しっかりとした皮膚が残っている部分まで 切除しました。次に骨切ばさみで 突出している骨を切断しました。骨の周囲の筋肉部分を 皮膚内に収まる大きさと形に整形しました。なんだか似たような作業をつい最近やったように感じていましたら カメの足をイタチか何かの動物に食いちぎられた手術を一週間ぐらい前にしたのを思い出しました。
大きな静脈からの出血がなかなか止まってくれないので 筋肉組織を吸収性の糸でまずは十文字にかなりきつめに縫合しました。おかげでなんとか出血が殆ど治まりましたので 皮膚をナイロンの糸でこれもかなりしっかりと縫い合わせました。少しでも気を抜くと内側の筋肉がはみ出しそうになるので 奥様がシッポを保持してくれながら 上手に細いピンセットで糸をかけた部分の内側に筋肉を収めてくださいましたので かなりうまい具合に皮膚同士を合わせて縫合できました。直径が五ミリぐらいのシッポなので 縫い合わせた傷口は八ミリ位でしたが 何とか丁寧に五針縫いましたから 恐らくきれいにくっ付いてくれるだろうと思います。
手術が終わりましたが 傷口に口が届かないようにエリカラーを装着しました。体重六キログラムのダックスフントでしたが 胴体が長いしシッポの先に傷口がありますから 小型犬ですが 大型犬用のエリカラーを装着しました。初めに中型犬用のものを当ててみましたが 体を曲げると簡単に口が傷口に届いてしまいました。大型犬用でも下手をしたら 届きそうな状態でしたが これ以上大きなエリカラーがありませんので 装着しました。但しすっぽねけそうだったので 引っ張っても抜けないぐらいのきつめに首輪を装着して それにひもでくくってエリカラーを固定して 絶対にはずれないように工夫してみました。
この子は預かってからも 非常に大人しい性格のように見えていますが 一旦パニック状態になってしまったら 恐らく普段とは性格も行動も全く一変してしまうのでしょうから 十分すぎるほどにその対策をたてました。取り敢えずは傷の回復を優先するために 傷口の消毒と薬剤の塗布を毎日してもらいます。更には化膿どめの抗生剤や痛みを和らげる薬も内服で一週間投薬してもらおうと思います。
傷口の治療も重要ですが この子の非常にデリケートな性格に対するフォローも重要だと思います。
預かってからの様子だと 取り敢えずは人がそばにいて 自分の存在を意識してくれていれば 恐らく落ち着いていられるのではないかと思います。ですから 飼い主さんのご家族は 恐らく数人いらっしゃるみたいなので 世話係担当の方以外も出来るだけこの子をかまってあげて 一人ぼっちにしないように心掛けて頂くしかしょうがないのかもしれません。勿論家族全員がお出かけになって この子が独りぼっちになることがあるかもしれませんが そんな状態が長時間続くときには 今回使用したエリカラーを再活用して頂いて この子の首に装着して頂くことをお勧めしてみようと思います。まあベストの対策とは言い難いのかもしれませんが 又自分で食いちぎってしまうようなことを繰り返すことは防げるのかもしれません。
人間の場合 精神的な不安定さからくる異常な行動は カウンセリングなどによって軽減されるのかもしれませんが 人間と犬の関係においては 言葉で細かい気持ちの動きについて話し合う事が出来ませんから より難しいのかもしれません。でもこの子は見た目もすごく可愛らしいし 普段の性格はとても穏やかで扱いやすい子ですから 出来るだけの愛情を注いでやれれば 殆どの異常な行動は未然に防げると思いますから 精一杯可愛がってあげて欲しいと思います。
人間も犬も寂しさには 弱いものだと思います。私は見てくれもよくありませんが 性格にも問題があるみたいで 友達が非常に少ないので 普段から寂しい思いをしています。いつも一緒にいてくださる奥様がおられるから 何とかまともに生きていけているような状態です。万が一 奥様が私のもとを去ってしまったら 恐らく私は生きていくことに目標を失ってしまって 取り敢えずは仕事をしなくなると思います。怠け者の私が 何とか毎日病院を開けて 仕事をしているのは 奥様と二人で優雅でちょっとリッチな老後を過ごすためでしかありません。
その奥様がいなくなってしまったら 全ての事にやる気をなくしてしまって 臆病者ですから自殺はようせんと思いますが 仕事を辞めてしまって 直ぐにこの病院を売りに出します。実家にでも帰って 食っちゃねの生活になると思います。外出するとしたら 乃木坂や欅坂のコンサートや握手会ぐらいのものでしょう。暗くて惨めな一人暮らししか 私には残っていないと思います。ディズニーランドは この世の楽園で 非常に楽しい場所だと思います。でもそれは奥様と一緒に出掛けているからで もし一人でその場所にいても 私は恐らくすわり心地のいい場所を見つけたら そこで閉園までじっとしていそうな気がします。この寂しくて 自らのシッポを咬み切ってしまった子にとっても 私と同じようにいつも一緒にいて 心を癒してくれるかけがえのない存在が見つかればいいのに と思ってしまいました。

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