5月2日 カメの鼻先が喰いちぎられる事件が起こりました

夜十時を過ぎてから 飼っているカメがベランダに水槽を出しておいたら 顔から出血していて止まらないので 直ぐに診て欲しいという電話がかかってきました。先日 恐らくイタチに後ろの足を食いちぎられた石亀が来院しました。完全に人間でいうと足首の辺りから先が無くなっていましたので 突出した骨を除去して 筋肉と皮膚を縫合する手術をしたばかりです。その亀は 工場の敷地の池で飼われており 時々イタチが出没しているのが 目撃されていましたし 傷口がいかにも引きちぎられたようにギザギザになっていましたので 縫合するのに形を整えるのに苦労しました。
所が本日来院した亀 恐らく草亀の類だと思われますが の顔の部分を診察すると 上あごのとんがっている鼻に当たる部分が 鋭利な刃物で切り落とされたような傷口になっていました。アパートの三階のベランダで事件は起こったのだそうですから 猫やイタチなどが 侵入できる可能性も殆どなさそうですし 現に侵入して亀を襲って脱出した形跡も全く見られないので 恐らく鳥がやって来て 危害を加えたのだろうと 飼い主さんは仰います。
私には その方のベランダが どのような高さにあり どれくらいの広さで どんな構造をしているのかも 想像が出来ませんので 飼い主さんの言葉を信用するしかありませんが 鋭利な刃物で切断したような傷口ですから 鶏が 例え猛禽類であっても カメの顔の先端の部分を そんな風に切断出来るとは 想像しづらいのですが 世の中いろいろと信じられない出来事がちょくちょく起こっていますから 信じられないような不思議な現象が起きてしまったのかもしれません。
亀は冬眠から覚めて そこそこの期間がたつのに 以前としてボーっとした状態が続いており 食欲も殆どないのだそうです。何しろ顔の先端部分を切断されたのですから いかに亀の意識がボーっとしていたとしても 一瞬に起こった出来事なのでしょうけれども カメ本人としても凄く驚いたでしょうし 大変怖い思いをしたはずです。来院した時に 出血は殆ど止まっていましたが 多少血液が滲み出していましたので 止血材を押し当てて 患部を綿棒で圧迫して なんとか出血を止めました。
患部の血液などを取り除いて 観察してみると 皮膚が殆ど正方形に切断されていて 鼻腔の組織がまるみえになっている状況でした。足の喰いちぎられた先端部分なら 縫い合わせてしまえば 一応収まりがつきますが 鼻のあった部分ですから 呼吸をするためには 縫い合わせてしまう訳にもいきません。顔の部分を観察すると この子は幸いにも口元に隙間があいています。綿棒でこじ開けると そこそこ隙間が出来ますから 内服薬の投与は難しくなさそうです。
治療の方針としては 一辺が7ミリぐらいの正方形に開いた傷口が 自然治癒に任せてしまってどのような形で修復するのか 正直見当がつきませんが 亀自身の治癒力で 肉を盛り上げ 皮膚が再生するのを気長に待つしかないように思いました。取り敢えずは消毒薬で清潔にして 尿素を塗布して 回復を早めるしかなさそうです。ただ亀の場合どうしても傷口が水中に埋没する機会も多いでしょうから 抗生剤を強めに内服で投与して化膿を防ぎながら 治癒してくれるのを待つしかないように判断しました。
それから ここの所 食欲が殆どないと言う事でしたので カメフードをお湯でドロドロにふやかして 更に少し砂糖を加えて 栄養価を高め 口当たりをよくして 注射ポンプを哺乳瓶代わりに渡しましたので 強制給餌を心掛けてもらって 体力と回復力を高めるように 試みてもらう事にしました。
正直な所 鼻の部分がどの様な形状に回復するのか それまでにどれくらいの期間がかかるのか 全く見当もつきませんが 飼い主さんが諦めずに治療を継続されれば 取り敢えずは命に関わることはなさそうですから 何とかいい方向に向かってくれることと期待しております。現在冷静になって考えてみても 鳥類に 例え猛禽類であっても カメの顔の先端部分を鋭利に切断することは難しいように思います。犯人がどの様な生き物か さっぱり見当がつきませんが 世の中には不思議な事件が起こるものだと 思わず感心してしまいました。

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