6月22日 保護されたカラスが 想定外の回復のために 飛び立ってしまいました

.カラスが道端に蹲っているのを保護したので 診察して欲しいと 電話が入りました。当院では野生動物を連れてこられた場合 半額は当院が治療費を負担させていただきますが 残りの半額は 保護して連れてこられた方に負担していただくことになっていることを了解いただいてから 来院していただきました。すぐに来院されましたので 診察をしました所 まだ巣立ったばかりの幼鳥であるように思われました。全身を触診しましたが 特に外傷や出血している所はありません。骨格を確認していきましたが 骨折や脱臼などの重大な損傷も無さそうでした。所がふらつくようで 普通に立ち上がることも出来ないようです。
顔の表情を 見てみると瞼が内側から 周期的に閉じてしまい 眼の焦点があっていないので 普通に立ち上がることができないようです。交通量の多い道路の道端に蹲っていたことから ひょっとしたら車と頭を接触してしまったのかもしれません。頭部に物理的なダメージを受けたために 眼振があるので 所謂目が回ってしまっている状態で まともに立ち上がれない可能性があるように判断しました。その辺りの事を連れてこられた方に説明しました。眼振が 相当にきついので 取り敢えずは入院していただいて 頭部へのダメージの回復を目指す治療をする事にしました。取り敢えずは 脳圧を下げる薬と 炎症を和らげる薬 そして感染予防のために抗生剤を 少量の点滴とともに投与しました。
眼振がひどい状態の時には 食欲がなくなる場合が多いので 栄養価の高いペースト状のドッグフードを濃い砂糖水で溶かして 流動食にして 注射ポンプで嘴の隙間から 流し込みました。最初は強制的に口に流し込まれることを かなり嫌がっていましたが 相当に空腹だったみたいで しばらくしたら それ程嫌がらなくなって 結構な量を飲み込んでくれました。空腹が満たされたのと 結構強引だったかもしれませんが
そこそこ濃厚なコンタクトが取れましたので 幾分カラスが 病院と私に馴染んだかのようで 落ち着いてくれたかのように見えました。寒い時期ではないので 常温で つまり入院室に冷房も暖房もしない状態で 泊まってもらうことにしました。
翌朝 幾らかでも元気になってくれているのかと 不安な気持ちで入院室を覗いてみると お預かりした時は ぐったりとして体を横たえていましたが 何とか体を起こした状態でいてくれました。眼振の周期も長くなり 程度も軽くなっているようでした。まだ普通に自分の足で立ち上がることは 出来ませんが 大分落ち着いてくれているようです。勿論まだ自力で食事はとれないようなので 前日と同じ薬を点滴とともに投与しました。それから栄養価が高くて 消化吸収の良い食事を流動食にして 注射ポンプで口から流し込みましたが 前日程暴れて嫌がることはありませんでした。カラスは非常に賢い動物ですから 前日の経験を覚えていて そりゃ口に注射ポンプの先を突っ込まれる行為には かなり抵抗があったのでしょうが 辛抱していると その場の空腹が満たされることを理解してくれたみたいで 我慢しようと心がけてくれているみたいでした。
まだ巣立ったばかりの幼鳥かもしれませんから 親鳥ほど上手に飛べないために 車と接触したのかもしれませんから ある程度しっかりと体調が回復してから 自然に返してあげた方が良いのかもしれないと思いましたので焦らずに 少しずつ体調が回復してくれることを期待しようと思いました。つれてこられたかたかられんらくがはいりましたので その旨をお伝えしました。その日はかなり蒸し暑かったので 入院室の冷房を入れて 涼しい環境にしてあげました。夕方に もう一度強制給餌をしましたが そのときにはある程度積極的に流動食を飲み込んでくれたので 案外回復が早いのかもしれないとおもいました。
翌日の朝 入院室の様子を見ると 何とか頑張って 立ち上がってくれていました。眼振は完全に消失してはいませんでしたが ほぼ収まったような状態にまで回復してくれていました。食べやすそうな食餌を器に入れて置いておくと 何とか自力で啄ばんでくれましたから こちらの予測よりも回復が早いので 嬉しかったです。さすがに野生の動物の回復力は 人間のお世話がなければ生きていくことが難しい ひ弱なペットばかり面倒をみている私としましては たまに野生の動物の治療をする機会がありますが その回復力の速さと確実さには そのたびごとに驚かされてしまいます。
そして今朝 様子を見に行くと 元気に羽ばたいていましたので 嬉しいというよりも 呆れる位に元気になってくれていました。試しに病院の広い空間に出してあげてみると 羽ばたいて私の背の高さ位まで飛び上がれましたが 壁にぶつかりそうになりましたので 試しに運動場で様子を見てみる事にしました。まだようやく体を浮かび上がらせる位が精一杯なのだろうと思いましたので 屋外に出して様子を見てみようと考えました。
所が 屋外に出たカラスは 野生の本能が更に蘇ったのか 今までよりはずっと強く羽ばたきました。とはいえ まだ飛び立てるほどには回復していないだろうと思って 運動場の地面にカラスを置いてみました。暫くは様子をうかがっていましたが 突然強く羽ばたいて あっという間に青空に向かって 飛び去って行ってしまいました。まあ元気になれば 野生の動物ですから 少しでも早く人間の手から放してあげた方が良いのは間違いありませんが まさか前日どう似た起ち上れるようになったばかりの幼鳥が 見事に飛び去ってしまうとは お恥ずかしい話ですが 予測できませんでした。
全く想定外の展開になってしまいましたが まあ無事に野生に本人の意志で戻って行ってくれましたので これはこれでよかったのかもしれないと思います。取り敢えず連れてこられた方に電話をかけて ことの顛末を報告しました。まあ連れてこられた方にしても 道端で偶然に見かけて ほっておけなかっただけのカラスの事ですから 見事に回復して 無事に自然の世界に戻って行ってくれましたことを 喜んでいただけました。まあ本来なら 飛び立てるところまで回復したことを 確信してから 連れてこられた方に来院していただいて その目の前で無事に飛び立つ姿を目にしていただけた方が喜ばしい展開だったのかもしれませんが 野生動物相手の話ですから こちらの予定通りに 都合よく話が進まなかったのは しょうがないのかもしれません。申し訳ないけれど かかった治療費の半額を 連れてこられた方にご負担いただいて 今回のカラスの幼鳥の恐らく交通事故による入院は 無事に解決して 終了いたしました。

ブログ一覧