7月12日 虐待にあっていたかもしれない犬を預かりました

昨日の夕方 わざわざ大阪市内から 来院された飼い主さんが連れてこられたダックスとプードルのミックス犬を入院 という形で預かりました。この飼い主さんは 遠方にお住まいですが 昨年このことは別の犬の治療に来院された方でした。大阪市内の数件の動物病院にかかっておられたのですが はっきりした診断も下してもらえず 非常に困っておられた時に たまたまこのブログを読まれて 似たような症状の子を治療して 無事元気になってお返ししたことを 書いていたみたいで わざわざ枚方の片田舎の病院まで 訪ねてこられました。
十日ほど前から 急に食欲元気がなくて 多飲多尿の状態が続いているようでした。近所の病院で血液検査やレントゲン撮影をしてもらって 白血球数が 相当に増大しており 細菌による感染症が疑われる という診断で 抗生剤を皮下点滴で投与されたのだそうです。症状が全然回復しないので 三軒ほど病院を転々としたが 状態が回復に向かってくれないので わざわざ当院までやって来られたわけです。
先ずは問診を丁寧にしたところ 生理が一月半ほど前にあったことが分りました。その時陰部をしきりに舐めていたけれども ここ数日もまた陰部を気にして舐めていると言う事でした。白血球がどの病院の検査でも 五万前後だったそうですから 当然子宮蓄膿症が疑われました。生理のあった時期と症状が発現した時期からしても 辻褄が合います。どの病院でも血液検査をされて 点滴に抗生剤を投与されたけれども症状が改善していないのだそうで 当然の成り行きの様に思いました。
子宮蓄膿症であるのなら 出来るだけ早く外科的な処置 つまり開腹して 海の溜まった子宮を取り除く手術が必要です。それも 症状が発現してから かなり時間的に経過していますから 手術しか 有効な解決法は考えられないと 説明しました。普通ならすぐに手術の準備をして 数時間後には 手術開始といった流れになるはずでしたが 飼い主さんにしてみれば これまでの病院で手術の話を聞いたことがなかったので 手術に対する不安を持たれたみたいで 取り敢えずは内科的な治療を試みて それでだめなら外科的な治療 手術をお願いしたい と言う事になりました。
手術が遅れれば遅れるほど リスクが高まることを分かり易く説明したつもりですが 取り敢えずは一晩内科的な治療を試みることになりました。これまで点滴はいずれも皮下に投与されたそうなので 入院してもらいますので 静脈に留置針を装着して 静脈点滴での投与をしてみました。静脈点滴は 数秒に一滴ずつの投与になりますので 時間はかかりますが 血管にダイレクトに入りますから 薬の効果も早く出ることが期待されます。
一晩 静脈点滴をしながら 抗生物質をかなり思い切って投与してみました。すると期待していた以上に薬が効果をあげてくれたみたいで 翌朝にはかなり元気を取り戻しました。繰り返していた嘔吐もしなくなり 翌日の昼ごろには ほんの少しですが食欲が出てきました。けっきょく三日間入院してもらいましたが 手術を回避できて かなり食欲と元気が回復してくれました。退院時に薬を多い目に渡しておいたら その後すっかり元気になったのだそうです。
今回はその子とは別の犬を連れて わざわざ来院されました。六歳のミックス犬で 先日まで弟さん夫婦が面倒をみていたのだそうです。その夫婦が面倒をみれなくなったので 十日ほど前にひきとったのだそうです。最初は 結構食欲もあり 水を沢山飲んで沢山おしっこをするのが気になっていたのだそうです。三日前から急に 嘔吐を繰り返して食欲も全くなくなり ぐったりとしてしまったのだそうです。今度の子は雄犬なので 子宮蓄膿症ではないはずだけれども 昨年診てもらった子と似たような症状になったので わざわざ遠方にある当院まで連れてこられたのだそうです。
一目見ただけで 全身の毛が絨毯の様にもつれて塊になっていましたし 爪も伸び放題でくるりと丸まって根元に刺さりそうになっていましたから かなりの長期間 まともに面倒をみてもらっていない非常に可愛そうな境遇で生活していた子であることが分りました。早速診察室で様子を見ると ダックスとプードルのミックス犬なので 非常に性格の穏やかな人懐こい いわゆる可愛らしい性格の犬であることが分りました。
この子が狂暴な性格で 暴れたり噛んだりするような性格の子なら 面倒をみるのが億劫になってしまって 恐らく狭い篭に閉じ込めっぱなしで餌と水だけ与えているような ひどい飼い方をされても ある程度は理解できないでもありませんが この子は非常に人懐こい 甘えん坊の本当に可愛らしい性格の子なのです。ぐったりしているからか まともに立ち上がれないような状態でした。おしっこを垂れ流すので おちんちんの部分に腹巻を巻かれていました。しかしおちんちんの周辺が 真っ赤にただれて ジュクジュクしていましたので 取り敢えずは腹巻を外しておしっこの出具合をみることにしました。
聴診器をあてると心音を正常だし体温も平熱でした。取り敢えずは血液を採取して検査をしてみました。肝臓、腎臓の値がかなり高くて どちらも要治療の状態かもしれません。丸二日何も食べていないのに血糖値が高めなのも気になります。おしっこは 検査をしている間もチョロチョロトとおちんちんから漏れ出していました。伏せている状態なので お腹や後ろ足におしっこが浸み込んでしまい かなりひどい匂いがしていました。おしっこを採取して検査すると 比重とpHが凄く高いし 蛋白とともに糖も+++でした。
症状や検査結果から 判断して恐らく糖尿病であることが分りました。恥ずかしながら 私は自分も糖尿病を患っておりますので 糖尿病の治療の難しさは 自覚しています。ただ現在の状態が 嘔吐を繰り返して 下痢もしていたのだそうで 食欲 元気が全くないぐったりした状態です。取り敢えずは点滴を皮下からいれて 対症療法的な薬を併せて投与して 様子を見ることにしました。治療を始めて一夜明けましたが 以前としておしっこは垂れ流し状態です。裏の通路に出してあげましたが 屋外に出たからと言って ウンチもおしっこをする気配は全くありませんでした。殆ど膀胱が空っぽでしたから致し方がないように思います。定期的に散歩に連れて行ってもらっていないために 膀胱一杯におしっこが溜まったら 自分の意志で排尿するような習慣が全くないのかもしれません。
嘔吐は取り敢えず一晩治まっていましたので 食べやすそうなフードにかつを節をかけて 更に食欲を刺激してみましたが 残念ながら見向きもしてくれませんでした。多少は昨夜よりも元気が出てきた気配がありましたが まだ立ち上がって動き回る気配はありません。今夜また同様の点滴と薬剤を投与してみて 回復を期待したいのですが これまでに糖尿病の犬を治療した経験からすると 食欲元気が戻るまでには 時間と根気が必要であろうと思われます。
しっかりした飼い主さんですから インシュリン療法になっても ちゃんと管理してくれると思いますが 先ずはその前に日常生活が出来るようになるために 食欲と元気が戻ることが必要ですが 飼い主さんが変わったばかりですから 上手く新しい環境に順応してくれることを期待しております。まだ年齢も六歳と若いし 凄く性格も懐こくて甘えん坊の可愛らしい子ですから 回復に向けて全力を尽くしたいと思います。

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