7月7日 自信を喪失しました

このブログでは何度も何度も書いていますが 私の奥様は非常に優秀な人物です。頭の回転は私よりも数段速いし 記憶力も段違いです。私よりもずっと度胸があって ピンチになっても全く動じることがありません。手先も凄く器用ですし 私の様に飽きっぽくなくて 根気よく仕事を完璧に全うされます。私よりもズットズット器が大きくて 凄く頼りがいのある方です。 そんな奥様ですから 私が下手に対抗心を燃やしても 返り討ちにあってショックを受ける事等分り切っていたつもりです。所が本日起こった出来事で 私の獣医師としてのプライドがズタズタに引き裂かれてしまいました。

早朝に急患が来院されました。一昨日からおしっこが出ていないという雄猫でした。おしっこは三日でなければ 命に関わりますから かなり差し迫った状況です。 取り敢えず診察しましたが 膀胱はおしっこが溜まって かんかんの状態でした。まず必要な処置は麻酔をかけて おちんちんの先から膀胱まで尿道カテーテルを挿管して 溜まっているおしっこを出してあげる事です。他に選択の余地がないし のんびりしていたら命に関わりますから その辺りの状況を飼い主さんに説明して 猫を預かりました。

麻酔はすんなりとかかってくれて 直ぐに安定した状態になりましたので 直ぐに作業に取り掛かりました。 猫をあおむけに寝かせて お尻の下にタオルを分厚く敷いて 四肢を固定しました。おちんちんの先をつまんで カテーテルを挿管しようとしましたがいきなり先端の部分からカチカチに石が詰まっていて 全くカテーテルが入りません。たまたまその前日私が診察中に犬に右手をかまれて 思うように右手が使えなかったので 余計に上手くいかなかったのかもしれません。 取り敢えずは おちんちんの先の部分でしたから 十分におちんちんをもみほぐしてやると カチカチに詰まっていた尿結石が粉々になったみたいで 辛うじてカテーテルの先端の部分が尿道に入りました。

ホッとしたのもつかの間 約二センチほど入ったところでまた結石がカチカチに詰まってしまっているようでそこから先に進めません。カテーテルの反対側から生理食塩水を吸った注射ポンプを当てて 生食を押し込みました。強い水圧をかけて 何とか結石を突破しようと試みましたが 上手くいきません。 仕方がないので 普段は歯石取りに使っている超音波のスケーラーを準備することにしました。作業を始める前にスケーラーの準備をしておくこともありましたが 何しろ早朝の事なので準備できていませんでした。

私が手術室から出てスケーラーの準備にかかっていると 奥様がその猫に近づいて何かしているみたいです。一分後ぐらいに奥様から 無事にカテーテルを膀胱まで挿管できたと報告されました。 一応私は右手を負傷しているハンディキャップはありましたが 懸命に試みて上手くいかないので 別の道具を準備している間に 獣医師でも何でもない奥様が 器用にカテーテルを挿管してしまったのです。正直な気持ち 奥様の方が私よりもズットズット手先が器用ですから 避妊の手術位なら 何度も何度も手術に立ち会って なすべき手順はすべて理解されているはずですから 私よりも奥様に手術して頂いた方が 上手くいくのではないかと思っていました。

所が 今日現実に私がやってみて上手くいかなかった作業を 奥様がいとも簡単になさったので 何時かこのような日が来るだろうと覚悟はしていましたが 恐れていたことが現実となってしまいました。 一人の人間としての出来が あまりに奥様の方が上等にできていることを 思い知らされたみたいで打ちのめされてしまいました。元々獣医師として それほど優秀な人間だ等とは思いあがっていないつもりです。頭も悪いし 度胸もないし 凄く不器用だし、でも病気やケガで苦しんでいる動物のお役にたちたいという気持ちは しっかりと持って仕事をしているつもりでした。

まさか飼い主さんに 私がやっても上手くいきませんでしたが 獣医師でも何でもない奥様が上手くやり遂げてくれました、などと説明するわけにもいきませんから かなり手こずりましたが 何とか必要と思われる処置はきちんとできたと思います、と神妙な顔をして話しました。勿論奥様がやってくれなくても 準備していたスケーラーを使用すれば 私でもカテーテルの挿管は出来たはずですが 奥様があまりに簡単に成し遂げられましたので 違いを見せつけられたようでショックでした。

この仕事をしていて 自分の不勉強や力不足に泣きたくなることは しょっちゅうありますが 奥様が私よりも上手に治療をこなされたという 泣きたくなるような惨めさは久しぶりに味わいました。だからと言って奥様が威張り散らされるわけでもないし 時間とともにこの屈辱から立ち直るしかありません。気持ちを切り替えて明日からまた仕事に頑張ろうと思います。

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