8月10日 安楽死と言う処置をとりおこないました

こんなことは 勿論自慢になる話ではありませんが 年に一度くらいのペースで 安楽死と言う処置を行っています。うちは病院ですから その使命は 病気やケガで苦しんでいるペットの辛さを少しでも取り除き 回復に向かうお手伝いをする場所です。予防注射や避妊の手術と言った健康体に対して行う処置もありますが これもペットが元気で長生きする事へのお手伝いだと考えております。
人間の場合の安楽死については 賛否両論ありますが 現在の所 耐え難い苦痛に苛まれていて 回復の見込みがなく 死期の直前と判断されて 本人が強く希望している場合には 認められることもあるのかどうか といわれているみたいです。ペットに関しては 当院でも似たような条件が揃えば 勿論最後の条件は ペット本人ではなくて飼い主さんの気持ちですが それらの条件がそろった場合 正直仕方なくですが 安楽死の処置をとる場合があります。
本日安楽死の処置を実施した子の場合 昨年から当院で治療を受け始めておられました。他の病院で 足の裏にできた 腫瘍に対して 手術が無理なので 内用薬と外用薬を併用して対応するしかない と言われて半年ほどその治療を続けていたが ラブラドールで体重が40キロぐらいある事もあり 腫瘍からくる痛みで 立てない 歩けないので 寝たきりの生活しか出来そうにないので 何とかならないかと言う事で来院されました。
その時13歳と そこそこ高齢ですが 心臓の状態はかなり元気で 心音もほぼ正常でしたし 血圧も問題ありませんでした。血液検査をすると 肝機能と腎機能が 年齢相応に 正常値を上回ってはいましたが その時点で麻酔をかけて手術を行えない事はなさそうに 思われました。始めて来院された時は 内科的な治療 即ち薬によるその場しのぎの治療を望まれて来院されましたので そのご希望に沿えるような薬を出しましたが 手術で摘出して 解決してしまう治療法もある事だけ お知らせしておきました。
一週間後に 再来されて たまたまなのでしょうが うちの出した薬がよく効いてくれたとのことでした。その事で うちに対する信頼度が かなり上がったみたいで うちの病院が提案した 手術に前向きになっておられました。前にかかっていて 手術は無理だと診断された病院が 枚方で規模が一番大きくて 獣医師の数も恐らく一番たくさん抱えている病院なので うちのような枚方の隅っこで 細々と営まれている病院の獣医師の言葉は 容易に信じがたかったのかもしれませんが 治療効果が現実に上がって 立てない歩けない状態だった子が 何とかかろうじ立ち上がり よろよろと長柄歩き始めてくれたので 手術をすすめた言葉にも信憑性が増したようでした。
二回目の診察時には 一回目と同様の薬の投与で終わりましたが 三日後に電話がかかってきて 手術をする決心がついた とのことで 互いの都合の良い日に手術を行いました。何しろ大きくて 重たいワンちゃんの足の裏のかなり大きな腫瘍の縫合手術をして しっかりと縫合するので かなり神経を使う厄介な手術でしたが 何とか無事に終える事が出来ました。十日後に抜糸するときには 殆ど普通に歩けるぐらいになっていましたので 手術をして本当に良かったです と喜んでいただけました。
その後は 問題なく生活できていたのか 全然来院されていませんでしたが 先日お父さんと娘さんで また来院されました。来られた時が 珍しくうちの病院が凄く混み合っているタイミングでした。普段は 閑古鳥が鳴いている病院なのに 不運としか言いようがございません。何しろ大きな子ですから 待合室には 他に小さな犬や猫が複数待っておられましたので 気をつかって病院の前で 暑い中かなりの時間お待たせしてしまいました。まあ病院としては 緊急を要する場合は別ですが 来院された順番に 診察させて頂くのが原則でしたし そういう時に限って来院された患者さんが 検査や治療 投薬に時間のかかる方ばかりでしたので ようやくその方の順番が来て 私が慌てて病院の前に出向きましたが 残念ながら その時は既にお帰りになっておられました。
チラッと様子を見た時には 片目が腫れ上がっていましたし 呼吸もかなり促迫していて すくにでも治療が必要な状態だと思っておりましたので 心配しておりましたが 今朝早くに電話をもらいました。要件は 安楽死の要請でした。当院としては 最終手段として安楽死を位置づけしておりますので 取り敢えずはその子の状態や家庭環境を詳しく確認し調査したうえでないと 安楽死は出来ないとお答えしました。娘さんが 結婚しても自分の両親と同居しておられて その方が主役となって その子の面倒をみておられるのだそうです。
ご両親は かなりのご高齢で お父さんが癌の末期を迎えており お母さんがうつ病にかかっておられるのだそうで ご両親の面倒をみるだけでも 大変な状況のような事は理解できました。そしてその娘さんは小さなお子さんを抱えておられて 更には二人目を御懐妊中とのことでした。ご主人が ご両親の面倒やお子様の子育てにも かなり積極的に手伝ってくださっているのだそうですが それだけでもかなり大変な状況であることは間違いなさそうです。
更には刈っている犬が 今年十四歳になった一月位前から 急に認知症の症状を示しだしたのだそうです。昼間ぐっすりと眠って 夜中に徘徊するし 散歩を要求してかなり大きな声で泣き叫ぶのだそうです。昼間とにかく刺激して 眠らないように働きかけてみるのですが 他にもしなければならないことが山ほどあるので この子にかかりきりにはなっていられないのだそうです。ご両親の面倒と 妊娠中の子育てですから 当然だと思います。
この子が小さな犬なら 多少泣き叫んでもそれほどの負担にはならないのでしょうが 何しろ40キロもある大型犬ですから いつも夜中になると泣き叫けぶので 御近所さんから苦情が出始めているのだそうです。犬にも 人間と同様の症状を示す 認知症と言う病気があり その治療薬も存在します。但しその効果には 個体差が大きいし ひどい症状に対する明確は効果は これまでの経験から見ても あまり期待できないように思います。
そこら辺りの 事情をうかがってしまうと 飼い主さんが 十年以上も可愛がってこられた愛犬の安楽死を望まれても致し方のない事かと 考えるようになりました。診察時間の早いうちに 来院されましたので 取り敢えずは診察台にあげて 様子を見てみました。片目に腫瘍らしきものが出来て 腫れ上がってしまっていて きちんと診察しようとすると 歯を剥いて抵抗します。昨年足の裏の手術を した時は 割と穏やかな性格でしたが 一年経ってしまうと かなりの苦痛にずっと苛まれているみたいでかなり扱い辛い性格に変貌してしまっているみたいでした。
心音は 相変わらず元気で奇麗な音でしたが 心臓が元気な分 散歩を要求する鳴声にも 力強さがありそうでした。娘さんとも一年ぶりの再会でしたが やはりかなり疲れ果てておられる様子が窺えました。診察を始めてほんの数分で 本来なら 認知症の治療をすすめて その治療効果を確認する必要があるのかもしれませんが この子の状況と 飼い主さんの事情を考慮すると 安楽死を選択するしかないように判断して その処置をとりおこなう事を承諾しました。
安楽死にうちの病院で用いる薬は 硫酸マグネシウム4グラムを水10mlに溶かしたもので 体重一キロ当たり1ml静脈注射します。この子は40キログラムもありますから 40mlもの大量の薬物を静脈注射しなければなりませんので それ自体かなり難しい作業になります。私も安楽死の為の静注は 何度も経験がありますが これほど大量に駐車したことがありませんでしたので まずは注射ポンプの選択に迷いました。
40ml一本で吸い込むためには ガラス製の50ミリリットルの容量を物を用いなければなりません。ガラス製なので 注射ポンプ自体がかなり重たいし たっぷりと薬剤を含みますから 扱い辛くなる心配があります。20mlのディスポーザブルの方が軽くて扱いやすいのは間違いありませんが 途中でポンプを差し替えねばなりませんから それはそれで厄介そうです。
それでまず50mlのガラス製注射ポンプでの静注を試みました。所が案の定 ほんの数ml薬を投与したところで ポンプの内筒が外筒に引っ掛かってしまったように全く動かなくなってしまいました。小さなものなら 強引に力づくで解決できる場合もありますが 何しろ大きなポンプですので 直ぐに諦めました。慌てて薬を作り直して20mlの注射ポンプ二本を用意しました。反対側の腕の静脈から 取り敢えずは半量の20mlを投与しました。半量の薬剤でかなり呼吸がゆっくりになりましたが 苦しませないためには残りの半量も出来るだけ速やかに投与しなければなりません。
静脈に針を残したまま注射ポンプを外して もう一本のポンプを装着しようとしましたが その時に犬が暴れてしまって 注射針が静脈から外れてしまいました。仕方がないので 右の後肢の静脈から残りの半量を投与しましたら 速やかに呼吸が停止しました。聴診器を当てて 心音の停止を確認しました。目に光を当てて 瞳孔反射が消失したことを 確認してもらい 死亡したことを 飼い主さんに告げました。
朝一番で やり遂げた仕事が 大きな子の安楽死でしたから 何ともやりきれない一日の始まりでしたが 元気な子が予防注射などに来てくれて 飼い主さんと笑いながら話が出来たので 少し気持ちが晴れました。安楽死と言うのは 作業自体は 静脈注射するだけですから それほど大変ではありません。本日の子は 独大サイズだったので 結構手こずりましたが 本人がそれほど苦しまないで逝ってくれましたので まだ気が楽でしたけれども やはり心の中はどんよりとしてしまいます。まあ結果的には 飼い主さんのお役に立てたことだと思いますので 前向きにとらえていかねばならないのでしょう。でも正直 あんまりやりたくない仕事でした。

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