9月21日 ガンコな皮膚病でお悩みだった犬が完治しました

 初めて来院されたのは6月の中ごろでしたから 約3か月かかりましたが ボロボロ がさがさ、ネトネトだった皮膚が他の部分と同様の色とスベスベさを取り戻しました。そしてかなり毛が生えそろいました。それまでに数年にわたり何軒もの病院を巡り 治療したけれどほとんど改善が認められないとのことで 飼い主さんも半ばあきらめ気味で来院されました。
 これまでの診断名と具体的な治療歴を訪ねると ある病院では寄生虫と診断されたが寄生虫の駆除を試みたが改善しませんでした。細菌感染と診断されて抗生剤を大量に投与されたことがあったけれど殆ど状態に変化はありませんでした。一番多かったのはアレルギー性の皮膚炎と言う診断でした。確かにアレルギーによる皮膚炎も少なからずあります。但し、アレルギーと診断するからには必ずアレルゲン即ちアレルギーを起こす物質を確定しなければきちんとした診断とは言えません。
 アレルゲンさえ確定してしまえばアレルギー性の皮膚炎は確実に治療できます。アレルゲンが食物の場合にはそのアレルゲンを含まないフードを与えればすぐに症状は消失するはずです。アレルゲンが特定の金属や繊維であるのなら 身の回りからそのアレルゲンを完全に排除してしまえば症状はすぐに改善されるはずです。
 但し、人間の花粉症のように普通に生活していてもアレルゲンとの接触を完全に遮断できない場合は アレルギーと完全に縁を切ることは難しい場合もあります。 
 とにかく重要なことは アレルギーと言う病気であると診断された時に アレルゲンが何であるのかまできちんと飼い主さんに説明してもらえない場合は 恐らくその先生はその病気の原因がなんなのかまるで分っていないと判断してまず間違いないと思います。そしてアレルゲンをきちんと特定するのにはかなり手間暇がかかります。
 例えば食事性のアレルゲンの場合、主にアレルゲンとなるのは動物性のたんぱく質の可能性が高いので これまでにその動物が一度も食べたことのない動物性蛋白質しか含まないフードを一定期間与えてみます。これまでに食べたことがないたんぱく質の場合はアレルゲンである確率が殆どゼロだからです。勿論そのフード以外には一切与えてはいけません。
 もしそのフードだけを食べていれば症状が治まるのなら 食餌によるアレルギーだと確定診断できます。次にそのフードに加えて 例えば牛肉とか豚肉とかを一品ずつ加えて与えます。加えても症状が出なければその加えた食材はアレルゲンでないことが確定します。アレルゲンである確率の高そうな食材から加えていき 症状が出た時に加えた食材がアレルゲンと断定できるわけです。但し、アレルゲンが一つだけとは限りませんから 慎重に対応する必要があります。
 このようにアレルゲンを確定診断するのには相当な日数と指示された食べ物以外は一切与えない決まりを徹底的に守れる飼い主さんの協力が無ければ無理なので 飼い主さんにとっても相当に大変なのです。ただ、飼い主さんがどうしても自分のペットをアレルギーから守ってあげたい強い愛情がある場合のみ アレルギーを克服できると思います。
 話がアレルギーのわき道にそれてしまいましたが この患者さんの場合、私は一番症状のひどい部分の毛と皮膚を少し採取して 顕微鏡で観察してみました。するとカビの胞子らしいものが見えたので 恐らく真菌による皮膚病であろうと判断して まず皮膚を丁寧にシャンプーしてできるだけ清潔に保ち 舐めたりしないようにエリカラーをまいて患部の乾燥を保つように心掛けました。次に患部がかなり広範囲だったので内服の抗真菌剤と痒みを抑えるための非ステロイド系の消炎剤を投与して様子をみました。
 最初の2,3週間はあまり状態の改善が認められませんでしたが これまでの経過が長いので薬の効果が目に見えるのに時間がかかることを説明して投薬を頑張って続けてもらいました。すると治療を始めて一か月目ぐらいからまず患部の痒みが殆ど消失しました。痒がらなくなったのでエリカラーを外して治療を継続すると徐々に幹部の状態が最初はジトジトネトネトだったのがカラッと乾燥してきて明らかに皮膚が回復に向かっているのが分かりました。
 症状の改善が目に見えるようになり 飼い主さんも大変喜ばれましたが 皮膚病の治療では原因さえ確定できればある程度症状を改善するのはそれほど難しくありません。難しいのは完全に病気と縁を切ることです。真菌による皮膚病と言えば 人間でおなじみなのがいわゆる水虫ですが 治療をしてある程度症状は治まりますが 完治させるのは相当に大変です。この子の場合も同じでかきむしって変色し肥厚していた状態からは良くなりましたが 完全に真菌と縁を切るのがなかなか難しかったです。殆ど皮膚は見た目に正常に戻り痒みなどの自覚症状も全くなくなってからも 根気よく投薬を続ける飼い主さんの協力があったので 殆ど毛が生えそろいました本日で完治したと判断しました。
 以上のように 皮膚病の治療には 時間もかかるし 根気も必要だし、勿論治療を継続するために費用も掛かりますから飼い主さんの協力が必要不可欠です。今回のケースはたまたま私が治療した時にいい結果が出ました。勿論私が皮膚病の原因は何でも分かります、なんて偉そうのことは決して申し上げません。なんだかんだと試行錯誤して 結局原因がさっぱりわからなくて 飼い主さんに謝罪したことは何度もあります。ただ言い訳をするようですが皮膚病は類似した症状の中から その原因を探るのですが病気の進行段階によって診断がつきやすい時期と非常に診断が難しい時期があるのは事実です。だから運悪く診断のつきにくい時期に来院された場合には原因を特定できないこともままあることはご理解ください。
 とりあえず長期にわたった治療が完了したのでホッとしました。お酒を召し上がる先生なら祝杯をあげられるのかもしれませんがお酒の全くダメな私ですから 今夜はご飯を一杯御代りでもしようと思います。

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