1月14日 常連の患者さんの急死

昨日の昼過ぎに電話が入り 朝までは普通の状態だったのが昼過ぎから急にぐったりしたので往診に来てほしいとの事でした。年齢は十二歳のゴールデンでこれまでほとんど病気らしい病気にかかったことが無くて 凄く元気なイメージしかない子でした。直ぐに往診の準備をして伺いましたが げっそりとしていて体に触ると手足の先が冷たくなっていて明らかに体温が低下していましたしおなかを使ってかなり苦しそうな呼吸をしていましたからその場で治療できるレベルではないと判断しましたのですぐに往診車に乗せて病院に連れて帰りました。

診察台にのせて体温を測ると36度しかありません。このまま冷たくなっていったらそのまま死んでしまいますから とりあえずエアコンのスイッチを入れ、ストーブを持ち込み、ドライヤーで温風を吹きかけて 全力で体を温めました。体を温めながら 血液検査の準備をして 採血し検査を実施しました。何しろ健康な子だったので これまで一度もきちんとした血液検査をしたことがなくて 過去の結果と比較検討もできませんが とりあえずこの子の現状を確認するために調べました。

まず腎機能の値がかなり高くなっていました。腎臓の働きは血液に存在するアンモニアなどの有害物質を尿という形で体外に排泄することです。腎臓の値が高くなっているということは 有害物質が尿によってスムーズに排泄されておらず 血液に蓄積されていることを示し これだけでもかなり危険な状態です。次に肝機能ですがやはり全ての値が正常値の数倍になるほど高くなっていました。肝臓は多方面で活躍する重要な臓器ですから その不調も多方面にわたって表れているものと推測されます。

また白血球の数値も相当に高くなっていました。白血球とは体内で細菌と戦う細胞です。白血球が増加しているということは 細菌が体内のどこかで増殖して悪さをしようとしていることを示します。普段から体内にはいろんな種類の細菌が存在しますが 体力があれば免疫力でそれらの細菌をコントロールしていますが 衰弱すると免疫力も低下しますから 細菌が増殖して体に有害な働きを始めます。

かなり貧血が進行していることもわかりました。聴診すると正常な心音が聴こえなくて 心雑音ばかりが聴こえます。心音というのは血液の逆流を防ぐための心臓に存在する弁が閉じる音です。心雑音とは弁がきちんと閉じれない状態になってしまっており 弁がブルブルと震える音です。つまりこの子の心臓の弁はきちんと閉じれなくて血液の逆流が起こってしまい、心拍出量が減少していることを意味します。心臓が全身に送り出す血液の量が正常よりもかなり少なくなっているわけです。さらにその血液が貧血状態で赤血球が減少しているのです。赤血球はヘモグロビンによって体内に酸素を送り届ける役割をしますが、この子の場合は心臓の拍出量が減少しており さらにその血液の赤血球まで減少していますから 送り届ける酸素の量がすごく不足している状態です。ですから常におなかを使って深呼吸をして 少しでもたくさんの酸素を体内に取り込もうとしているわけです。

かなり深刻な状況であることが判明したので、とりあえず飼い主さんに電話をして現状を説明して 病院でできる限りの治療を施すことを説明しました。まず病室を体温をあげられるように準備しました。さらに呼吸を楽にするために入院室を閉じた空間にして酸素を送り込み酸素室にしました。静脈に留置針をセットしてしっかりと温めた点滴と腎機能や肝機能を改善する薬や抗生剤、増血剤、強心剤などを流し込みました。もう少し早い段階なら、そもそもの原因がどこから始まりどのような経過で現状に至ったのか解明できたのかもしれませんが ここまで危険な状態になると各々の症状に対応する治療を試みるしかありません。薬が効いてくるまで体力が持ってくれるかどうか微妙なところだと思いました。

そのまま治療を継続して深夜になり十二時ごろにいったん呼吸が停止してしまいました。あわてて人工呼吸をしながら呼吸促進剤を投与したら何とか息を吹き返しました。同様のことを二度三度繰り返した後 朝方の四時ごろに呼吸が停止した時には残念ながら呼吸が戻らず心臓も停止して死に至りました。私としては出来うる限りの手を尽くしたつもりですが 残念ながら力及びませんでした。朝の七時になって飼い主さんに電話で悲しい結末をお知らせしました。病気やケガで苦しむ動物の役に立ちたくてこの仕事を始めた私としては 一番つらい仕事ですが、正直にできる限り正確に最後の様子を報告しました。

糞と尿で汚れた体をできるだけ奇麗にしてあげて 自宅に送り届けました。子犬の時からずっと面倒を見させてもらっていた子だったので 私も飼い主さんと同じくらい悲しかったけれど落ちついて冷静に最後の説明をして お別れをしました。この子の場合は飼い主さんに細かく経過を訪ねていくと数日前にも同様に急にぐったりしたことがあったそうですが様子を見ていると三十分ぐらいで元に戻ったので 今回も同様に戻ることを期待して様子を見ていたので病院へ連絡するのが遅れてしまったのだそうです。

若くて元気な子ならそれでも治療が間に合うのかもしれませんが この子の場合のように高齢になればなるほど 体力が低下しているので あっという間に命にかかわることが珍しくありません。今回のことを教訓として 高齢のペットを飼っておられる方は 些細なことでも普段と異なる様子に気が付いたら とりあえず病院で原因を確認されることを繰り返しお勧めしていこうと思います。このブログをお読みいただいている方も ご自分の事は勿論 ペットの些細な異常を見つけたらそのままにしておかず 早めにその原因を確認されることをお勧めします。

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