4月7日 狂犬病集合注射に出かけて 夜には緊急手術をして 疲れました

本日は狂犬病集合注射の担当日でしたので 準備をして出かけました。もう何十年も集合注射を経験していますが やはり一年ぶりなので 忘れ物がないかの点検には十分に注意を払いました。朝から強くはありませんが雨が降っていてかなり寒い一日になりそうです。

注射をする時間には 辛うじて雨があがってくれましたが 会場には昨夜からかなり降ったために水たまりがあちらこちらにできていて コンディションとしてはよくありません。それに加えて何しろ寒いので飼い主さんの出かけようという気持ちにかなりブレーキをかけてしまいそうです。

本日の会場はもともとそれほど多くの頭数は期待できない場所でしたが 午前、午後とも注射頭数は前年を大きく下回りました。沢山注射しても少なく注射しても最後に獣医師会のメンバー全員で平均化するように調整しますが それでもたくさん注射した方が取り分がある程度多くなる仕組みなので 出来たら一頭でも多く注射したいのが正直な気持ちですが こればかりは本人が頑張ってもどうしょうもないことなので 諦めざるを得ません。

結局 注射をする時間には雨が降っていなかったにもかかわらず前年に比べてマイナス50頭となりましたので がっかりして病院に戻りました。取り敢えずお金の確認をしました。以前はお金が足りないこともちょくちょくありましたけれど ここ数年はぴったりと合っていました。所が 今年は何と四千円も不足していました。原因として考えられることはお釣りを渡すときに五千円を間違えて千円のつもりで渡してしまったのかもしれません。注射頭数が激減してがっくりしているうえに これまでで最大の現金不足が判明して 踏んだり蹴ったりの気分で 夜の診察を始めました。

病院をあげたとたんに飛び込んできたのが十八歳と高齢のシーズーでした。数時間も前から急に発作を起こして痙攣が続いている とのことでした。年齢も年齢ですが発作が起きてから相当に時間がたっていましたから 体力が消耗してしまっていて 心臓が止まりかけていました。体温も下がっていましたから殆ど死にかけている状態であることを飼い主さんに告げました。

取り合えず体を温めながら 採血して血液検査を実施しました。十八歳といえば人間でいうと九十歳ぐらいの年齢ですから当然と言っても仕方のないことかもしれませんが 肝機能も腎機能も低下していました、静脈から点滴を入れながらの治療が一番効果がありそうに思えましたが その場合は入院が必要になります。飼い主さんが入院を望まれませんでしたので 皮下点滴で栄養分と水分、必要と思われるお薬を投与しました。

治療が終わり 内服薬を作っているうちに飼い主が呼吸をしなくなったみたいだと告げました。あわてて診察室に戻ってもらい様子を見ると呼吸は停止していましたし もともと泊まりかけていた心臓の拍動はさらに弱まっていました。人工呼吸をしながら心臓をしっかりと動かすような薬の投与を考えましたが 飼い主さんがそこまでの延命を望まれませんでしたので 治療はしないことにしました。呼吸が停止していましたから 速やかに心停止の状態となり 死亡が確定してしまいました。

年齢を考えると飼い主さんが延命を望まれないのも当然かもしれませんが どんな状況であろうと動物の死と直面するのは辛いことです。今日は狂犬病の集合注射で それなりに緊張して体力まで消耗していましたし 注射頭数は少ないうえに現金まで不足していましたから 猶更落ち込んでいたところが 病院を開けたとたんに 動物の死との直面ですからさらに追い打ちをかけられたように落ち込みました。

診察時間の終りごろに電話が入りました。以前はちょくちょく来院されていたシーズーが一週間ほどご飯を食べないのだそうです。なんでもっと早くに そして早い時間に電話してこないのか不思議でしたが すぐに来院してもらいました。話を聞くとすぐに病名は浮かびましたが 確認するために血液検査をしました。

食欲の廃絶、多飲多尿、腹部の膨満、白血球七万以上、前回の生理の時期のすべてが 子宮蓄膿症を暗示していました。飼い主さんに病気の概要と 治療は摘出手術しかない事等を説明しました。それも一週間も食べていませんから 体力的にもギリギリなので今夜手術することにしました。

正直私自身が精神的にも体力的にもかなりしんどい状態でしたが 頑張らざるを得ないと判断しました。あわてて手術の道具をそろえて滅菌を始めました。更にその他の手術の準備をして 既に帰宅された奥様を迎えに上がりました。夜の十時から手術のスタートは かなり遅めですが仕方がありません。幸い麻酔はすんなりとかかってくれて すぐに安定しましたので手術に取り掛かりました。

子宮蓄膿症の手術とは 要するに生理の時に陰部から侵入した細菌が増殖して 子宮に膿が溜まり妊娠時のように巨大化してしまったものを摘出する手術です。普段の避妊の手術よりも大きめに皮膚を切開して術野を形成しました。術野から大きくなった子宮を取り出そうとするのですが あまりに子宮に膿が溜まりすぎていて 固くなってしまっていたのでさらに術野を広げなければお腹の外に引っ張り出せませんでした。子宮蓄膿症の手術はこれまでにもかなり経験がありますが子宮を体外に取り出すのにこれほど苦労したことはありませんでした。

何とか体外に引っ張り出した子宮を血管を結紮して摘出しました。非常に巨大化しているので血管も太くなっていますし結紮するのも慎重に丁寧にやりました。奥様があまりに大きな子宮なので重さを測ったところ一キロ以上もありました。体重七キロの犬が摘出によって六キロの犬になりました。いくらなんでもこの子宮は大きくなりすぎでしょう。年齢が三歳と若くて体力があったので 何とか手術にも耐えてくれたのだと思います。

大きく切開したので とじ合わせるのにもたっぷりと時間がかかり終了したのは十二時を大分まわっていました。取り敢えず無事に手術を終えたことを飼い主さんに電話してから 点滴をしたりしているうちに 奥様が手術の道具を洗って乾燥機に入れてくれました。血の付いた覆い布もさっと洗濯機を回してくださいました。後片付けを明日に回すと地の臭いが病院にこもってしまいますから 奥様のテキパキとしたお仕事には いつものことながら感謝しております。

今日はさすがに疲れ果てましたので 奥様を送り届けましたら シャワーも浴びずにベッドに直行しました。朝から落ち込むことばかりでしたが 最後に大変だけれどもやりがいのある手術をできてよかったと思っています。また明日からのお仕事に頑張ろうという気持ちにしてくれたので 後はこの犬が元気になって退院してくれることを望むだけです。

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