4月11日 避妊の手術と乳腺腫瘍の手術を同時に行いました

昨日の夜八時近く 病院の終いがけの時間帯に 六歳の柴犬が来院されました。病状としては 乳腺に腫瘍が出来ているという事でした。診察台で触診してみると 左側の乳腺の一番後肢に近い部分に直径四センチ位の コリコリとした腫瘍が確認されました。カチンとした塊ですから 脂肪腫のような放っておいても害のない代物ではないことが 明らかです。直ぐに手術で取り除くことをおすすめしましたが 飼い主さんが 躊躇されているみたいです。
事情をお尋ねすると 昨年にも春と秋に 二回同様の乳腺腫瘍が出来てしまい 別の病院で 取り除く手術をしたのだそうです。その手術の後は 割ときれいに直っていましたから 丁寧な手術がなされたのだろうと判断しました。乳腺の腫瘍と言うのは 女性ホルモンによる影響が強いのです。乳腺は 前肢の付け根から 後肢の付け根まで かなり長く連なった組織で 左右に二本存在しています。乳腺腫瘍を発症する子の場合 乳腺にその種と言うか源となる腫瘍細胞が無数に撒き散らされているケースを想定して治療にあたる必要があります。
乳腺腫瘍と 触診で確認できる大きさの塊は 無数にばらまかれた腫瘍の種が 発芽して成長してきたものなのです。ただその一つ目の腫瘍はたまたま最初に発芽して成長してきて その存在を確認されたわけですが 現実には その子の乳腺全体に何時発芽して成長するかもしれない腫瘍の種がばら撒かれていることを 想定して治療を考えなければならないのです。先ほども書きましたが この腫瘍は女性ホルモンの影響で 種となる腫瘍細胞が発芽して成長してしまうのです。
ですから 現実に大きくなってしまった腫瘍の塊を摘出するだけでは 根本的な解決にはつながらないのです。女性ホルモンを分泌する源である 卵巣を摘出しなければ 現在ある腫瘍を摘出するだけでは 不十分なのです。卵巣を摘出することによって 女性ホルモンの分泌が抑制されますから 既にばら撒かれた腫瘍の種となる細胞が 発芽して腫瘍に成長することを未然に防げるのです。卵巣を摘出するとともに子宮に膿が溜まる蓄膿症を未然に防ぐために子宮も同時に摘出してしまいます。子宮と卵巣を摘出する手術 即ち避妊の手術を腫瘍を摘出する手術とともに行う事が 今後乳腺腫瘍の発生する可能性を非常に低くするために必要な手術なのです。
但し ある程度大きくなった腫瘍を摘出する手術と避妊の手術は どちらもそれなりに体に負担がかかる手術ですから 若くて元気な子の場合は同時に手術出来る場合も多いのですが 高齢であったり肝臓腎臓辺りに問題を抱えていたりしたら日を改めて分けて手術する場合もあります。いずれにしてもこの二つの手術をきちんと実施しなければ それこそもぐら叩きのようなもので 大きくなった腫瘍の摘出する手術を繰り返していても 飼い主さんが求める方向の腫瘍と縁を切った生活と言う 解決には向かわないのです。
そこの所の事情を 飼い主さんにきちんと説明して 手術をすることを納得して頂き 本日手術を実施しました。但し完全に乳腺腫瘍の心配をなくすためには 乳腺の全摘と言う手術がありますが この手術は左右二本ある乳腺を前肢の付け根から後肢の付け根まで 全部摘出するので 傷口がとんでもなく大きくなってしまいます。手術に要する時間もかなり長くなりますので どちらか片方ずつの手術になり 一月位の感覚を開けて反対側の乳腺を摘出することになります。
私は卵巣を摘出すれば ばら撒かれた腫瘍細胞が大きくなって問題を起こす確率は 非常に低くなりますから 体の負担が凄く大きくなってしまう 全摘手術は あまり積極的におすすめしておりません。この子の場合まだ若くて 体調にも問題が無かったので 同時に手術を行いました。勿論時間もかかりましたし 出血もそれなりにありましたが 何とか無事に手術を終える事が出来ました。恐らく今後この子が 乳腺腫瘍に悩まされることはないだろうと思いますので 本人も長時間にわたり しんどい手術だったかもしれませんが 還暦の私にとっても 相当にきつい手術でしたから 何とか無事に終えられてホッとしております。術後の回復も順調に進んでくれることを心から祈ります。

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