5月30日 肛門嚢破裂の子が二人も続けて来院しました

肛門の両側の皮下にある分泌腺を肛門腺と言います。その分泌液をためておく袋を肛門嚢と言いますが 分泌物が溜まりすぎると ある日突然風船のように破裂して 肛門の直ぐ脇の皮膚が破れて 結構大きな穴が開いてしまっている状態を 肛門嚢破裂 と言います。肛門腺の分泌液は 排便するときに 直腸が当然普段よりもずっと拡張しますから 肛門嚢が圧迫されて 直腸に分泌液が絞り出されて 通過している便に付着します。分泌液は個体によって微妙に臭いが異なるらしくて その便の臭いから 排便した動物を識別できるみたいです。勿論人間の嗅覚では識別できないので 魚の腐ったような不快なにおいとしか感じ取れません。
犬が 散歩に出かけた時に 便を見かけると わざわざ近寄り クンクンと臭いを嗅いでいますが 別に犬に変な趣味があるわけではありません。それから犬同士が対面して挨拶を交わすときには 顔同士を近づけての挨拶の後で 互いのシッポの辺りの臭いを嗅ぐ仕草をすることがよくありますが あれも別にエッチな趣味があって 相手の下半身の臭いを嗅いでいるのではなくて 過去に嗅いだ事のあるウンチの臭いの識別のための仕草なのです。
肛門嚢の排出口は 直腸つまりウンチの通過する部分に 小さく開口しているわけですが たまにその開口部分にウンチの欠片が詰まってしまう事があるのです。一旦 そんな状態になってしまうと出口がふさがってしまった状態で 分泌腺から臭い付けの為の液体が定期的に分泌されますので 袋が普段よりも膨らんでしまいます。臭いを貯める袋が膨らんだ状態になるために 肛門の周囲がむず痒くなるらいいのです。その為に 特に排便の直後に 肛門の辺りを地面にこすり付けるしぐさを 頻繁にするようになります。それから どのような因果関係があるのか 知りませんが 足の裏がむずむずするらしくて 足裏をしきりに舐めたり 場合によってはかみたくったりするのです。
そしてある日突然 肛門の直ぐ脇の皮膚が破れてしまう状態になるのが 肛門嚢破裂 と言う状態です。治療方法としては まずは肛門のわきの破裂した穴から消毒液を注入して 袋の中を洗浄します。十分に内部を奇麗な状態にしてから 皮膚の表面を消毒液のしみこんだ綿花で清潔になるように 丁寧にふき取ります。更に抗生物質の軟膏をたっぷりと刷り込みます。何しろ肛門の直ぐ脇の部分ですから どうしても不潔になりがちなのでこまめに消毒処置が必要になります。
破裂した直後は かなりの痛みを伴うはずですから 舐めたりしませんが 傷口が落ち着いてくると 肛門周りですからただでさえデリケートな部分ですので 頻繁に舐めまわしたり しだしますので エリカラーを装着します。不潔な場所に傷口がありますので 抗生剤と消炎剤を皮下に注射しました。内服薬として 同様に抗生剤と消炎剤を処方しました。勿論外用薬として 消毒液と抗生剤の軟膏も処方します。ちなみに 抗生剤とは 細菌を殺す薬 つまり感染症を防ぐ薬です。消炎剤とは 痛みや腫れ、痒みを鎮める薬です。
二人目の子は 昨日に破裂してから ぐったりとして食欲も元気も無くなっていましたので 栄養分と水分を補給してもらうために 皮下点滴も投与しました。皮下点滴とは 犬や猫の場合 皮膚がつまめてお肉と分離していますから 皮膚とお肉の隙間 即ち皮下に 点滴を急速に流し込む方法です。人間の場合は 皮膚の構造が異なりますので このような点滴法はありませんので 基本的に静脈点滴になりますから 凄くゆっくりとしか落とせませんので かなり時間がかかりますが 皮下点滴の場合 殆どが五~十分位で必要量が投与できますので 便利なのです。一体どんな感覚なのか 体験してみたいところですが 人間には投与できませんので 想像するしかありません。
肛門嚢破裂は 前兆として 肛門を地面にこすり付けたり 足の裏を舐めたり噛んだりしますから 比較的分り易いしぐさです。このようなしぐさをしきりに繰り返していたら 直ぐに病院で適切な処置を受けるべきです。一度破裂してしまって 来院された場合は その辺りの事を丁寧に説明しますので 繰り返し破裂してしまう子は殆どいません。肛門嚢破裂前の兆候に限らず 普段は見せない 不自然な行動 しぐさを繰り返していたら それは肉体に何らかの異常が発生しているサインなのですから その意味合いが分らなくても 取り敢えずは病院に来られた方がいいと思います。
病気はなんても 軽症で済めば 苦痛も少ないし 治療の手間暇も少なくて済みますから 当然治療費も安くてすみます。普段みせない仕草を繰り返していれば 取り敢えずは病院に出かけることが そのペットにとっても 飼い主さんにとってもいい事につながると思いますので 早目に動かれることをおすすめします。

ブログ一覧