6月20日 大きな腫瘍の摘出手術

 本日はミニチュアダックスの乳腺腫瘍の摘出手術をしました。握りこぶしくらいの大きさになっていて、かかりつけの病院では、10歳という年齢と腫瘍の大きさから手術は無理だと言われたそうです。飼い主さんは腫瘍の末期にはすごく痛みを伴うのでは、と不安になり、当院へ来られました。私が診たところ、確かに腫瘍の大きさは手術を躊躇するのも頷けるほどでしたが、丁寧に聴診したところ、心音はとてもいい状態でしたし 血圧も正常でした。念のため血液検査をしましたが肝機能、腎機能ともに正常でした。私は心臓、肝臓、腎臓に特に問題のない患者の場合、年齢を考慮しても、飼い主さんが希望される手術はなるべくトライしてみる方向で検討します。今回の場合も、腫瘍が更に大きくなりそうな
気配だし、一旦排膿が始まると それこそ死ぬまで続き、飼い主さんのご苦労と患者本人の苦痛を考慮すれば 勿論ある程度のリスクを覚悟の上で、手術にチャレンジすべきだと判断いたしました。
 が、かなり気持ちは重いです。腫瘍の摘出手術は、一般的にかなり出血量が多くなります。手術による出血量は 一般の方が想像されるよりもずっと少ないのが普通です。例えば、避妊の手術だと 腹腔内に手を突っ込んで、卵巣と子宮を摘出するので、今回の腫瘍の摘出と傷跡の大きさや縫合するハリ数は似たり寄ったりです。そして、避妊の場合 手術中に血を拭き取るのに使うガーゼはほんの2,3枚です。でも今日の摘出術の場合、血を拭き取ったガーゼの枚数は14枚でした。腫瘍というやつは体にとってすごく迷惑であり、場合によってはすごく苦痛を伴う死を招く厄介者です。所が、体が何故か必ず勘違いをして、腫瘍をVIP待遇で扱います。栄養分をたっぷりと供給するために、太い血管を何本もつな
いで歓待するのです。そのために腫瘍は一旦大きくなり始めるとそのスピードはすごく速まります。そんな太い血管が豊富な組織を摘出するので、どうしても出血量が多くなってしまうのです。
 私が手術をするケースでいやな状況は、まず麻酔が安定してかからない患者です。数日前に書いたように突然心停止したり、頻繁に呼吸が停止したりされては、安心して手術の手順が進められません。二番目にいやなケースが出血量の多い手術です。
 当たり前ですが、動物を手術させていただくのは、動物病院としては信頼して任せて頂いているのであり、とても名誉なことだし、好きだの嫌いだのと私情を挟める道理はありません。でも、私も人間ですから、生死と常に隣り合わせの手術だけに スムーズにこなしたいので、どうしても気が重くなる場合があるのは理解していただきたいです。
 本日はなんとか無事に手術を終えることができ、腫瘍のほうもすっかりきれいに摘出できたと思います。所要時間は90分で、一般的な避妊手術と同じくらいですが、出血量が多かった分神経を余計に使ったので、体に残る疲労感は何倍にも感じます。
 ともあれ、今夜は念のため入院してもらって、明日の午前中に飼い主さんが迎えに来られる予定ですが、無事にお返しして、飼い主さんのほっとされたお顔を拝見すると、手術の疲れなんかすぐに吹っ飛びます。

ブログ一覧