8月15日 熱中症のフレンチブルドッグが来院しました

 休診日の昨夜に 散歩中から急に嘔吐を繰り返し呼吸困難になったというフレンチブルドッグが来院しました。診察台にのせて身体に触れた瞬間にすごい暑さに驚きました。肛門で体温を測ろうとしましたが 瞬時に限界点の42度を振り切ってしまいました。慌てて処置台に水をためて 犬の身体を浸しましたが みずがぬるいので急いで二階の冷蔵庫からありったけの氷を持ってきて氷水にして 体温を下げようとしました。10分ほど浸してから ある程度体温が下がったようなので診察台にあげてドライヤーを送風にして乾かしました。その時の体温が41.2度まで下がりました。犬の体温は肛門で測って38~39度が平熱です。まだまだ呼吸困難のおさまらない危険な状態なので 今度は手術台にのせてマスクから酸素を吸入させて 引き続き氷を身体に当てて冷やし続けました。10分後には体温が40.0にまで下がり 呼吸もだいぶ落ち着いてきました。舌の色も紫からピンクに変わり やっと飼い主さんも落ち着いてくれました。
 近所の方なら入院させることを前提に治療しますが、四条畷から来院されていて 翌日には藤井寺に帰るそうなので 応急処置的な治療を試みました。背中に皮下点滴を入れて ショック状態から脱するための薬や嘔吐を鎮める薬 熱によるダメージからの回復を促進する薬などを点滴と同時に流し込みました。酸素マスクを外しても 直ぐには呼吸促迫にならないことを確認してから 帰宅してもらいました。帰り道にコンビニで板氷でも買って 体に当てて少しずつでも体温をさげながら帰宅することをすすめました。あとはうちに帰って静かで涼しくて落ち着ける場所においてあげて様子をみるように指示しました。
 今朝の未明にまた電話があり 先ほど残念ながら呼吸が停止して心臓の鼓動も確認できない事が報告されました。この犬とは勿論昨夜が初対面でしたが 大汗をかぎながら 懸命に回復への処置を全力で実施しましたから 力及ばなかった知らせに 相当にガックリしました。遠方の方だしかかりつけの病院もあるみたいだったので その場で帰宅させる治療を選択しましたが もう少し犬の状態を冷静に判断したら 敢えて入院させて 点滴も皮下ではなくて 静脈点滴で投与すべきではなかったのかと 後悔しました。静脈点滴は直接血管に点滴と薬剤を投与するので 投与するのには数秒に一滴とゆっくりですが 薬剤や点滴の効果は素早く現れます。勿論必要量を投与するのに数時間はかかりますから 入院してもらって預かることが条件になります。
 入院してもらって静脈点滴で治療しても助からなかったかもしれません。でも入院していたら助かる確率が高くなったことは間違いありません。もし入院して死を迎えることになるのなら 知らない場所で知らない人に見送られるよりも 帰宅して飼い主さんに看取られることを本人は希望するでしょう。飼い主さんとしても自分たちで看取ったのならそれなりに納得がいくことでしょう。かなり危険な状態の時に敢えて入院させてより効果的な治療をすることを勧めるのか 自宅で飼い主さんが付き添うことで入院するよりも大きな治療効果を期待するかは どれだけ臨床経験をつんでも判断が難しいのかもしれません。今更 どうすればよかったのか論じても所詮結果論ですから うじうじと悩むのは好きではありません。でも、この経験を今後の治療方針を考えるときの判断材料として生かしていきたいと思います。

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