8月4日 安楽死について考えた

 本日、突然電話で安楽死を希望されて 戸惑いました。8歳の柴犬で お腹に大きな腫瘍が出来ていて、かなりの苦痛を訴えているが かかりつけの病院で「もう手の施しようがない」と言われたそうです。当院ではこの十数年で 数件安楽死を実施しました。勿論 うちにかかりつけの患者さんで 運悪く悪性の腫瘍が出来てしまい その成長を抑える治療や手術を精一杯実施しましたが 進行をどうしても食い止められず 症状として大きな苦痛が発生してしまった段階を迎えた患者さんでした。痛みをを和らげてあげる治療はできないこともありませんが 所詮対症療法で 根本的な解決にはつながりません。本人の肉体的苦痛と見守る飼い主さんの精神的苦痛を取り除いてあげるための 最終選択として安楽死という方法もあるわけです。

 当院で実施する安楽死は 薬剤を静脈注射したら ほんの数分で神経や呼吸中枢が麻痺して眠るように死に至ります。病気やけがで苦しむ動物を助けるために、獣医師になったわけですから、その目的と真逆の行為を実施するのは、正直なところ やりたくないし凄く疲れます。でも、患者さんと飼い主さんのために必要と判断した時には やらざるをえません。

 本日電話をもらった飼い主さんと話したところ かかりつけの病院では安楽死を実施していないので断られたそうです。当院としては まずじっくりと診察して必要と思われる検査を実施したうえで なんとか治療の可能性を探り それでも安楽死という選択肢しか残されていないという判断がくだれば 安楽死を引き受ける可能性があることを説明しました。所が 飼い主さんからはこれまでに相当の治療費や検査代を支払ったので 直ぐに安楽死を実施してほしいとのご希望でした。これまでにもほかの病院で見放された患者さんがそれなりのリスクを覚悟の上で手術にチャレンジして結果的に成功して その後数年元気に生きた例があることを説明しましたが ご理解いただけなかったので 安楽死はお断りしました。

 安楽死は割と安価な薬剤を静注するだけですみますし それ相当の料金を頂きますから 病院の利益だけを考えるなら 実施するべきだったかもしれませんが やはり飼い主さんと十分な信頼関係が出来ていないのに そのような処置は絶対にできません。もし本当にペットの事を大切に考えている飼い主さんなら 生き延びるほんのわずかな可能性でもあるのなら そこにかけるのは当然だと思います。勿論、そこに発生する費用も重要な問題ですが もし自分の事と置き換えて考えるなら そんな事は二の次でしょう。当院では分割払いもできるし 催促なしのある時払いでも結構だからです。

 以前に獣医師の知人がら聞いた話ですが ある飼い主が健康な10歳の柴犬を連れてきて 子供の情操教育のために犬を飼っていたが その子が中学を卒業するので 情操教育も終了するので その犬を安楽死してほしい と言われたそうです。その知人は 一瞬唖然としてしまい その後怒りが込み上げてきて 「まず その様な事を考えるあなた達が 情操を身に着ける必要があるし、その子供も何の疑問も持たずに安楽死を了解するようなら 全く情操教育の効果が無かったみたいだから もう一度一から情操を身につけるべく頑張られたらどうですか?」と言ってお帰り願ったそうです。知人は割と冷静な人物なので 落ち着いた対応ができたみたいですが 私なら頭に血が上って 大きな声で相手を罵倒していたと思います。犬には飼い主を選べないので その柴犬にその後幸せが訪れたことを祈るだけです

 動物の大好きな人間から見たら 縁があって一緒に暮らし始めた動物は家族と同じだから 病気やけがをすれば病院で最善の治療を望むのが当たり前じゃないかと思ってしまいますがペットの飼い主が動物が大好きとは限らないのが 現実です。以前にハムスターを診察して薬を処方して約3000円請求したところ 飼い主から「なんで500円で購入した動物に3000円も払わなければならないのか?だったら、別のハムスターを買いなおすわ。」と言われて悲しくなったことがあります。その方にすれば 子供が欲しがったから玩具代わりに買い与えただけで 壊れて修理代の方が高ければ新品を買いなおす感覚なのかもしれません。ハムスターは小っちゃな動物だけれども 人間と同様に 長生きしたい気持ちもあれば 生きる権利もあって生まれて来ていると思います。だから 安価でちっぽけな存在かもしれませんが最後まで責任を持って面倒を見れる人だけが飼ってほしいと真剣に思いました。

 

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